第四十八幕
村山たかという女性がいる。年齢は30になっていると聞いている。
彦根藩家老に仕える家来である村山という家の娘とされているが同じ家老の義父の話では、多賀般若院の院主慈尊という人の年の離れた妹であるくにという人の娘で、父親は皇族の血を引く尊勝院の院主である尊賀上人という人らしい。
多賀にちなんで『たか』と名付けられたらしい。ちなみに直亮様が彦根に住んでいた時に多賀大社を参拝し直亮様の目にとまり側女であったらしい。直亮様からかなり寵愛を受けていたらしいが直亮様が江戸に行かれる際に側女をやめて京都に行き芸妓になっていたらしい。
ここからは義父の予想になるが般若院の慈尊が彦根にいる藩主候補である直弼様に近づけておけば何かしら徳があるかと思っているのではないかと言っていた。実際はどうかわからないために直弼様には言っていないが直弼様自身がかなり気に入っているようだ。女性としてとしてよりは和歌だったり三味線だったりの芸を気に入られているようだ。
そんな中、一月も半ばになってきたある日に直弼様は貞徹を招いてお茶を飲んでいた。
僕は追加でお菓子を持っていくのに廊下に出るとちょうど門のところに女性が歩いてきた。
「ああ、たか殿。直弼様に御用ですか?」
「こんばんわ、貞治様。
お約束はなかったのですが、少し気に入った歌が詠めましたので見て頂きたいと思いました。
お忙しそうですか?」
とても丁寧で大人の女性だなと感じる。見た目も美人だと思うし気遣いもできる女性である。
「今は友人と一緒にお茶を楽しまれてます。
僕は追加のお菓子をとりに来たところでした。たくさんお菓子あるのでぜひ一緒にどうぞ。」
「お邪魔にならないですか?」
「大丈夫ですよ。その友人は僕と違って和歌とかも詳しい感じの人なので。
では、行きましょうか。」
「はい。」
僕と並んで歩いて直弼様達のいる部屋の前に着くと部屋の中から
「たかが来たのか?こちらに参れ。」
直弼様の大きな声が聞こえた。内心、なんでわかったんだと不思議に思ったが独特の何かがあるのだろう。たか殿は僕に少し笑いかけてから
部屋に入り深くお辞儀をした。貞徹が息をのんでいるように見えた。
「こちらは多賀般若院の院主慈尊殿の姪御のたか殿だ。
和歌を教えてほしいと来られているのですが、私も驚くような歌を作られるし、三味線や諸芸にも秀でた女性だ。」
「たかです。」
「小西貞徹と申します。」
貞徹は少し気圧されたように見える。やはり気品というか藩主の側女だったという事もあっての貫禄のようなものを感じているのかもしれない。
女性関係がと言えるかはわからないが、直弼様の周りに色々な人が増え始めているのを感じた。




