第四十三幕
「えーと、まあ・・・そういう事なので善八郎の妹の志津殿にこの屋敷で働いてもらおうと思います。」
僕が言うと直弼様は困惑したように
「いや、いきなり『そういう事』と言われてもわからないのだが?」
正直に言うと『直弼様恋してますよね』とは言いにくかったので、かいつまんで説明を省きたかった。
「直弼様の交友関係の広がりとともにこの屋敷での集まりも増えてきてます。
それに関してはぜんぜん問題ないんですけど、人手が足りていない部分がありました。
やはり満足いく集まりにするためにも人手不足は解消したいと思っていました。
先日のお茶会で志津殿が奉公先を探しているという話を善八郎から聞きましたので、善八郎にご両親にこの屋敷での奉公の話を提案してもらったところ快諾を頂きました。
善八郎の妹という事もありますが、お茶会の時も準備から片付けまでしっかりと働いていましたし大丈夫かなと思います。すでの義父には確認を取り了承を頂いています。」
「ああ、そういう事か。それで・・・志津殿の気持ちは確認したのか?
やはり働く人の気持ちが大事だと思うのだが?」
「その点では問題なしです。
志津殿も大名家の屋敷での奉公は良い経験になると考えてもらえてますし、人見知りな所もなおすのに人が多く訪れるこの屋敷はうってつけだと善八郎に諭されていました。」
僕が一通り建前の話を終えたので、本題に入る事にした。
「というのは建前です、本音を言うと直弼様は志津殿に一目ぼれされたのではないかと思い今回の事を善八郎に頼ませて頂きました。
もちろん、確信があったわけではないので志津殿には普通に奉公に来てほしいと伝えただけです。
ですが、これが本当であるならば直弼様にはぜひこの恋を実らせてほしいと思います。」
直弼様は顔を真っ赤にして、
「そ、そんなにわかりやすかったか?」
「普段との違いがすごかったというのがありましたね。
長い時間を共に過ごさせて頂いていますが、直弼様が女性を親しくされているのも見た事ないですし、もしかしたらとは思うのですがそのようなご経験はないのですか?」
「貞治だから言うが、私は勉学などに励んでいたのでそういう事に今まで興味はなかったのだ。
交友関係は広い方だと自負しているが和歌にしても茶にしても男性の友しかいない。」
「まあ、僕も彼女がいたわけでもないので人の事は言えませんができるだけ支援させてもらいますよ。
それに志津殿も直弼様に対して善八郎から良い所を聞かされているので悪い印象ではないと思います。
あっ、別にそういう風にするために善八郎に取り計らってもらったわけではないですよ。」
「ああ、まあそうだろうな。でも、善八郎から見て私はどうなのだろうか?
藩主の弟という立場から気を使ってくれていないだろうか?
美化されていると本当の私を知られたときに幻滅されないだろうか?」
「大丈夫ですよ。善八郎は見たままを話す男です。
それでいて美化されているように聞こえるなら、それが本当の直弼様なのだと思いますよ。」
「貞治、私はどうすればいいだろうか?」
「とりあえず、他の人と同じように接する事ができるようになりましょう。
そうすれば何かが変わって上手くいきますよ。」
僕は適当なアドバイスをした。彼女もいた事のない男のアドバイスに何の意味があるのかと思ったが、今の直弼様には効果があったようだ。




