第四十二幕
「それで話とは?」
僕はお茶会後、義父を訪ねた。普通に出迎えて貰えているがどこか強い辺りのようにも感じる。
「実は埋木舎に一人女中を入れたいと思っております。」
「そんなに人が足りていないのか?」
「直弼様の交友関係が広く、和歌の集まりや勉強会などがあると人が足りない事がありました。
人をもてなすのがお好きな直弼様としては至らぬところがあり申し訳ないとお客人に言われていることもあるので、何とかしたいと思いました。」
「なるほどな。
それでいい人はいるのか?」
「はい、本日のお茶会で出会った人が最適かと思います。」
「どんな人だ?」
義父は心配そうに聞いた。まぁ当然の反応だろう。今日のお茶会は足軽の家からの招待だし、初めてあった人を屋敷で働かせるなど心配になってもおかしくはない。
「中藪に住んでいる秋山善八郎という者の妹で志津殿と申されます。お茶会の最中も準備から後始末まで手際よくしていましたし、善八郎の話では気立てもよく気配りもできるとの事でした。」
義父は少し考えたあとで何かをひらめいたような顔をしたあとニヤニヤと僕を見て
「そのお嬢さんは見た目もよかったのか?
それで側におきたいと思ったんじゃないのか?
うん、どうだ?」
ああ、なるほど。そっちにとったかと僕は思ったが完全に的はずれな詮索でもない。
「もちろん見た目はとても良かったですよ。
ただ、僕が・・・・ではないですけどね。」
「どういう事だ?貞治じゃないって事は・・・・直弼様か!?」
義父は驚きすぎて大きな声を出してしまい、焦って小声で
「えっ、あの直弼様がって事か?」
「まだ確認はしていませんが、あの直弼様がお茶会で借りてきた猫のように大人しかったところを見るとそうとしか思えませんね。志津殿以外の人はいつも話している小西貞徹と善八郎と僕ですから態度の変化があるならそれは志津殿が原因と見て間違いないでしょう。
善八郎に聞いたところ志津殿には思い人もいないようですし、藩主の弟の屋敷で奉公すればいい経験になるので、まあお互いに何もなかったとしてもいいのかなと思います。」
「まあ、いいだろう。
それで・・・その聞きにくいのだが、その志津殿は直弼様の事はどうなのだろうか?」
小さな頃から面倒を見てきた義父としては直弼様の恋を応援したい反面、上手くいかなかったらという気持ちもあるのだろう。
「善八郎の話では普段から人見知りはするが僕とは普通に話せていたので直弼様を意識している感じではあったそうです。」
「貞治も頑張れよ。」
「それはあまり言わないでほしい話でしたけどね。」
「とにかく、上手くいくように取り計らえよ。
いや、でも部外者があれこれやっても・・・ああ、どうすれば?」
かなり混乱しているようだったので
「まあ、成り行きに任せながら支えていきたいと思います。」
「そ、そうだな。頼んだぞ。」
義父からの許可も得たので次は本丸の直弼様に話さないとなと思いながら僕は帰路についた。




