第四十一幕
芹川の桜が咲いた頃、貞徹と善八郎からお茶会のお誘いがあった。
僕と直弼様が芹川の河原に着くと貞徹と善八郎がむかえた。よく見ると善八郎の後ろに人が立っていた。
「直弼様、貞治殿良くお越しくださいました。」
貞徹が言い、善八郎が
「ほら、志津もご挨拶しなさい。」
善八郎に押し出される形で一人の女性が現れた。
見た目も美しくかわいい感じの女性である。押し出されたが女性はもじもじとしていて何も話せずにいた。
こんな時はだいたい直弼様から話しかけるが直弼様も動かない。少し顔が赤いかなと思った。これはもしかしてと僕が邪推したところで、善八郎が
「すみません、妹の志津です。恥ずかしがりなのでご容赦ください。」
「ああ、すまない。はじめまして井伊直弼です。」
ここで直弼様もあいさつした。志津はぺこりと挨拶をしただけで声を出す事もなかった。
僕もとりあえず挨拶をして、その後はお茶会を楽しんだがどうも直弼様の様子がいつもと違う。
僕が
「善八郎、少し運んでほしいものがあるんだけど一緒に来てくれるか?」
「わかりました。」
二人で少し離れたところまで行き、
「善八郎、気を悪くしないで聞いて欲しいんだけど・・・」
「どうかされましたか?」
「志津殿はその・・・・思い人というか恋人はいるのだろうか?」
「えっ?!貞治殿がまさか・・・」
「いや、僕じゃないんだ。
今日の直弼様は少しおかしくないか?」
「そういえば口数も少ないですし、新しく会った人には積極的に話しかけられるのにうちの妹には・・・」
「そうだろ?そんなことありえないだろ。つまり・・・」
「志津に惚れられたという感じですかね?」
「そんな感じじゃないかな?確認はしてないけど明らかにそんな感じがする。
それで?志津殿にそういう人はいるのか?」
「それは大丈夫です。でも、どうなんですか?」
「いや、僕も直接聞くのは少し気が引けるから、埋木舎で働いてもらいながら様子を見させてもらう事はできないだろうか?」
「ああ、いいですね。
そういう名目ならうちの親にも説明ができるので大丈夫です。
それに僕は直弼様なら妹を任せても大丈夫だと思ってますから賛成ではあります。」
「正直に言うと直弼様には色恋沙汰が今までなかった分、不安がある感じなんだよな。」
「まあ、確かに直弼様が女性とおられるのは見た事ないですね。
まあ、一度妹には確認をしてからお返事させてもらいますね。」
「そうだな、そこで無理やりなんかしたら印象悪くなるしな。
じゃあ、一応確認しておいてくれ。」
「了解しました、直弼様のお気持ちについても少し探ってもらえると嬉しいです。」
「じゃあ、お互いに協力して上手くいくように頑張ろう。」
「はい。」
僕と善八郎の不思議な協力関係を結んだところで荷物を持ってみんなのところに戻った。




