第三十九幕
「直弼様、小西貞徹殿と秋山善八郎殿が到着されました。」
僕が言うと戸の向こうから直弼様が「お入り下さい。」と言ったので二人を伴って茶室に入った。
僕が二人を順に紹介した。直弼様も当然知られていたが、作法の1つとして一応紹介してみた。二人も順に名乗り直弼様に促されて着席した。多趣味な直弼様はちょうど茶の湯に打ち込んでいる時期だったこともあり自ら二人に茶を点てた。
貞徹は作法通りに茶を飲み、善八郎はややぎこちない感じではあったが作法に基づいて茶を飲んだ。直弼様は満足げに二人を眺めていたが貞徹が
「直弼様、こちらのお茶碗は有名な作家の作品ですか?」
「秋山殿はわかりますか?」
直弼様が少し意地悪な顔で聞いている。わからない事が前提にあるなと僕が思っていると善八郎は焦ったようにお茶碗を見て
「不勉強なものでわかりかねますが、見たところ有名な作家の作品ではないように思います。」
直弼様は満足げに頷き、
「その通りです。
私は茶碗とか道具はある物にまかせて、珍しい物を使おうとは思いません。なんなら、作法に関しても厳しくせずに楽しむものだと思っています。
大人数で集まってのお茶会も楽しいですが、どちらかと言うと囲炉裏を仲の良い者2・3人で囲むくらいがちょうど良いとさえ思っています。」
「形式主義や珍器・名物主義的な考えではないと言うことですか?」
貞徹が聞くと直弼様はにこりと笑い
「形式に囚われれば楽しさを見失い、珍器・名物にこだわれば客の中で優劣が生まれます。
茶は楽しむものであり、誰かによく見られるためのものでも、ましてやお互いに優劣をつけるためのものでもありません。
和やかに静かに主客ととも日常から離れ四季折々の景色を眺めたり語らい合う場であると私は思っています。
もちろん身分に応じたもてなし方というのは考えなければいけませんが、もてなす亭主ともてなされる客の心の交わりがなければいけないと私は思っています。」
「直弼様はとても深く考えられているのですね。
私には難しいな。」
善八郎が言うと直弼様が
「そんなことはありませんよ。
ただ私が格好をつけようとして難しく言ってるだけで、実際はもてなす側ももてなされる側も楽しい気持ちで、ただ人と仲良くなりたいそれだけなんですよ。」
「お気持ちが嬉しいです。
よろしければ今度は私達に直弼様をもてなさせて下さい。
そうですね~、桜が咲いたら野点をしながら花見等はいかがでしょうか?」
善八郎がいい、直弼様は満面の笑みを浮かべて
「それは良いですね。
お茶を楽しみながら、桜をみるのは風情があって良いです。
ぜひ、楽しみにしています。」
その後もお茶についての話が続き、途中から貞徹と直弼様は剣術の話で盛り上がり、直弼様の主催したお茶会は仲の良い者だけで盛況となった。




