第三十八幕
「ようこそ、小西殿、秋山殿」
僕は埋木舎に招いた彦根藩士の小西貞徹と秋山善八郎の二人をむかえた。
善利川の川辺で竹刀を打ち合わせていた二人に興味を持った直弼様が小西殿と試合をして気に入ったのが縁で招く事になったがさすがに小西殿だけだと居づらくてかわいそうだと思い、一緒に稽古していた秋山殿にもついて来てもらった。
僕としては直弼様と小西殿の試合が長時間に及んだため暇つぶしに話し相手になってもらったから秋山殿の事も気に入っていた。何よりも直弼様と試合を長時間できる小西殿には今後も直弼様の稽古相手になって欲しいと思う。二人が僕に丁寧にあいさつをしてきたが
「僕はそんなに偉くもないので気軽に接してください。
年も近いので友人になって頂けると嬉しいです。」
「そうですか・・・・・」
小西殿が言い、秋山殿が
「今日はどのような御用で呼ばれたのでしょうか?」
藩主の弟に呼び出されるというのはあまりある事ではない。そのため警戒しているようなので、
「直弼様が先日の一件で小西殿に興味を持たれ、一緒にいた秋山殿にも興味を持たれたようです。
直弼様は武芸だけでなく和歌や茶道などで色々な身分のご友人をお持ちなのでお二人とも友人になりたいと思われたのではないでしょうか。」
「ありがたいお話ですね。
脇殿は従者として大変ではないのですか?」
小西殿が聞いてきた。僕は笑いながら
「僕の事は貞治でいいですよ。
小西殿や秋山殿のようにもともと武士というわけでもないので。」
「いえ、家老家の方ですし・・・、それに目上の方を呼び捨てなどできません。」
小西が慌てていった。僕はあまり気にしていなかったがこの時代は儒教の朱子学が一般的で目上の人を尊重する文化がある。そこも理解しているので僕は妥協して
「では、僕の事は貞治殿くらいでどうですか?
僕もお二人の事を貞徹殿と善八郎殿と呼ばせてもらいますので。」
「承知しました。」
二人が声を合わせていった。そこで僕は思い出したので
「そういえば、お二人は茶道の作法などはご存じですか?」
「一応は二人とも基本的な事は出来ますがなぜですか?」
貞徹が聞いてきたので、僕が
「直弼様がお二人を茶でもてなすとおっしゃっていたので、作法は大丈夫かなと思いました。
あっ、別に作法を知らなかったとしても直弼様は不機嫌になったりはしないのですが・・・・そのなんていえばいいのか別の問題が起こるとでもいうのか・・・」
善八郎が不思議そうに
「別の問題とは?」
「直弼様は自分の学んだことを人に教えるのが好きな人で、作法を知らないといえばめちゃくちゃ丁寧に1から教えて下さるのですが、完ぺきになるまで一生懸命ご指導くださるので本当に大変なんですよ。
僕がうっかりと教えてほしいですって言ったら、三日間も朝から晩までお茶を点てたり飲んだりの繰り返しでかなりきつかったですね。」
「な、なるほど・・・気を付けます。」
貞徹が言い善八郎もうなずいている。
「まあ、大丈夫ですよ。気軽に接してください。
直弼様も年上の方との交流が多く同年代の方は少ないので喜ばれているので。
では、茶室にご案内します。」
二人を連れて直弼様の待つ茶室に向かった。




