第二十一幕
江戸に着いてから半月ほどが経った。
こちらの生活は今のところ彦根藩屋敷の中でなら自由に動いて良いと言われていた。直弼様は歴代の藩主の方や直亮様が集められた書物を読んだり、木刀で素振りをされたりしている。
さすがに馬術や砲術は練習できないので少々不満げではあるが、この状況も楽しんでおられるようだ。
僕は直弼様に付き合って一緒に本を読んだり、たまに剣術の稽古の相手をしたりして、直亮様からの翻訳の依頼もこなしていた。
そんなある日、西郷殿が「外出する事を許可する」との直亮様からの伝言を伝えられた。
藩屋敷にいる藩士を5人共に加える事が条件とされたが、直弼様は既に玄関先での素振りをする時に門番をしている藩士等と仲良くなっているのでお願いすれば着いてきてくれる人はいるだろう。問題は直恭様であまり藩士との交流がないので、直弼様ほど藩士と仲良くなられていない。
コミュニケーション能力は現代日本でも個人差があったが、この時代でも変わらないようだ。
そんな直恭様を心配して、直弼様は共に外出される事にしたようだ。直恭様も直弼様がいるからリラックスされているし、初めて歩き回る江戸に興奮しているように見えた。その反対に大久保殿は直弼様の気遣いが不満だったのか機嫌が悪そうだ。
『自分の方が人脈を作るのが上手い』とアピールされているとでも思っているだろう。
そんな事を考えていると直弼様が
「貞治、西郷殿に近場で学問を教えておられる先生が住んでいないか聞いといてくれるか?
書物での勉強も良いが先生から習うというのもやってみたい。直恭と共に学びに行けたら良いと思うのだが。」
「承知しました。どのような学問がよろしいですか?
国学ですか?」
「う~ん、さっき兵学の本を読んでいたので兵学にしよう。
人を動かすと言う点では政治にも通じる所があるし、もしもの時に直恭も学んでおいた方が良いかもしれないしな。」
「僕も詳しくはないのですが、流派などはこだわられますか?」
「いや、色んな流派を学んでみたいと思うがまずは基本となる考えを身に付けてから発展させたいからな。
江戸で主流となっている流派を聞いてくれ。」
そんな話をしていると藩士の一人が
「それなら山鹿流の西村台四郎先生が良いと思います。
気さくな方ですし、藩屋敷からも学問所が近いですから通いやすいですよ。」
「ほう、なるほど。
貞治、西郷殿に西村先生の所に学びに行って良いかを確認してくれ。」
「承知しました。」
僕はそう答えた。その後も江戸の街中を歩き回った後で屋敷に戻った。僕はその後、西郷殿の所に向かった。




