番外編『庭師となりて事を成す』5
水戸に入り、宇平は何人かの庭師を連れて打ち合わせへと向かっていった。貞義はできるだけ顔を覚えられないようにとの配慮がされて一緒には行かなかった。帰ってきた宇平は一同を集めて
「八月十五日にはご隠居が月見の宴を催される。仕事はその三日前までには仕上げなければならない。ご隠居は偕楽園を作られたような方で庭の事については大変厳しく指図される。みんな心して仕事をしてくれ。」
宇平の言葉を聞き、貞義はまさに絶好の機会を得たと感じこの機会にやるしかないと思っていると宇平から呼ばれた。宇平は他の人達から距離をとると、
「貞、青木殿が配下を二人連れて水戸に来ておられる。
この後は庭師見習いとして頑張って仕事しておりをみて抜け出せ。そうだな歯が痛いとでも言っとけばうちに疑う奴もいねぇだろう。貞や青木殿が望む事が上手く行くように手助けはできねぇが邪魔もしねぇ。
まぁ、応援はしてやるよ。あと短い間だが仕事はしっかりやれよ。」
「はい、ここまで連れてきて頂いただけで充分です。その日が来るまで一生懸命に働かせて貰います。」
そして真夏の暑さのなか、広い庭の手入れが始まった草を取り、梯子を運び今までの恩を返すためにも必死に働いた。十日になる頃にはほとんどの仕事が終わりを見せかけていた。宇平が話した予定の日まで三日となったところで
「親方、すみません。歯が痛くて作業に集中できなくなりました。ちょっと治療してきても良いでしょうか?」
「おっ?歯が痛いのかい。そりぁ、大変だ。
ここの仕事ももうすぐ終わるから気にせずに行ってこい。」
「じゃあ、ちょっと行ってきます。」
宇平と別れて青木殿が隠れ家としている所に向かった。
青木が出迎えて
「貞義殿、計画はこうです。
まず宇平には十二日まで仕事をして貰い、その日に貞義殿は三日分の干飯と水をもって、軒下に潜んで貰います。そして十五日に斉昭が一人になった所で行動してください。」
「わかりました。」
「あと、こちらを」
青木はそう言って仕立ての良い刀を一振渡してきた。
「これは?」
「これで斉昭を殺してください。
この刀が犯行現場に残っていれば庭師が犯人だとは思われないでしょう。宇平や庭師を守るためであり、貞義殿が逃げるための時間稼ぎにもなるでしょう。
事が終われば松前の近江商人の所にお連れします。
ご武運を祈ります。」
「ありがとうございます。必ず成し遂げます。」
青木達と別れて星を眺めながらもうすぐ来る『その日』を思うと不安になる。だが、ここでなさなければ意味がないと奮起して決行の準備に入ったのであった。




