番外編『庭師となりて事を成す』4
「おい貞、こっちの梯子運んどいてくれ!」
「へい。」
「おい貞、あの木の周りの草とっておけ。」
「へい。」「おい貞、・・・・」
忙しく次から次に仕事の指示がくる。
宇平の元で庭師見習いとして働きだして2ヶ月が経った。もうすぐ6月になるこの季節は新緑の季節であり、梅雨入り前の貴重な晴れ間がある時期だ。
夏に向けて宴や茶会を行いたい武士の邸宅や藩邸からの依頼で大忙しになっている。
仕事には慣れてきたがまだまだ下働きの内容がわかってきたくらいで一人前には遥かに遠い。
そもそも一人前になるつもりはない。斉昭に近づくための手段として手伝って貰うからには力仕事でも何でもして恩を返さなければいけない。
自分にできる事を一生懸命に取り組んでいる。
仕事中は厳しくても一仕事終えれば一緒に酒を飲んだりと仲良くもしてくれる同僚からは貞と呼ばれるようになっていた。計画についてはごくごく限られた人にしか知らせていないがそれでもただの見習いとして仕事を教えてくれてみんなの輪に入れてくれる優しさを感じていた。色々な人に助けられながらここまで来た。まだ先は長いかもしれないが今できる最善を尽くしていこうと思う。
そして、月日が経ち七月の半ばになった時に宇平が庭師達を集めて
「この月の末から水戸へ行き、ご隠居のお屋敷の仕事に入る。半月くらいはかかると思うのでめいめい準備をしておくように」といった。ついに斉昭に近づく機会を得られた。その集まりの後、宇平に呼ばれ
「貞、お前にも偕楽園を見せてやる。そこだお前が何を感じこの先どうしようがそれはお前次第だ。
悔いの残らないようにしろよ。」
「ありがとうございます。」
宇平の言いたい事の真意を悟り深く頭を下げた。
そして28日に庭師10人あまりが水戸へと向かい、その末席に貞義は同行したのであった。




