番外編『庭師となりて事を成す』3
江戸の茶屋の椅子に座り一人でいると、
「失礼、小西貞義殿か?」
「そうですが、あなたは?」
「ああ、失礼した。私は青木貞兵衛と申す者です。
あなたの事を聞いて会いに参りました。」
「あなたがあの方の言われていた方ですか。」
「ここでは話しにくいですね。移動しましょうか?」
「そうですね。浪人とはいえお仕事を紹介頂く話しなどあまり聞かれたくないですから。」
「今どきは珍しい話しでもないですよ。
では、紹介したい人の所にいきましょうか。」
青木殿は周りの人に怪しい者と思わせないためについた嘘にも上手く乗ってくれた。二人で移動して長屋の一つに入った。そこには一人の男が座っていた。青木が
「この方は佐野領の佐山道之助殿だ。間に人を挟む事でもしもの時にあの方にまで捜査が及ばぬようにと思っている。
実際の策なのだが、これから貞義殿には庭師となって貰う。武士をやめて庭師として働いていたという体にする。脱藩者を放置していたのではなく新たな道を見つけた者を応援しているように見せれば彦根藩にも悪くない話だ。まぁ、ここまではあくまでも建前上の話だが。」
「なら、なぜ庭師なのですか?」
「ここからは佐山殿にお願いしようかな。」
「そうですな。佐野領に庭師の宇平という者がおります。その者は多くの植木職人を抱えており、水戸斉昭が作った偕楽園や藩邸の庭園の手入れを請け負っています。貞義殿の最大の問題はどうやって斉昭に近づくかと伺っています。ならば宇平の所に弟子入りするのが最も近道です。庭師として水戸の藩邸に潜入する機会が訪れるはずです。詳細は後日、詰めるとして大人数で作業を行うので帰り際に一人いなくてもばれずに事を行う機会を待てるかと思います。」
「なるほど、承知しました。」
佐山殿が
「宇平にはすでに話がついています。
しばらくは下働きをしながら斉昭からの庭園整備の依頼が来るのをお待ちください。」
続いて青木が
「貞義殿、相討ちでは意味がありません。
必ずしとめて貞義殿も無事にお逃げください。東北の方で活躍する近江商人にも話を通してあります。事が終わればその者達と共に東北にお逃げください。
あなたが討たれたら身元を調べられます。それでわからなくても斉昭を殺したい人間や藩など想像すればすぐに彦根藩に行き着くでしょう。
必ず生きてお逃げください。」
「承知しました。」
「我々も決行の日まで色々と準備を致します。
共に直弼様のご無念を晴らしましょう。」
青木殿、佐山殿と握手を交わし、庭師の宇平に会うために江戸を後にした。




