第百七十二幕
「俺達に逆らおうってんのか?それは幕府に対する反逆だなぁ?」
「そんな、横暴ですよ。お代はしっかり払ってくださいと申し上げてるだけじゃないですか。」
「うるさい!」
幕府の役人が腰に差していた刀に手を伸ばした所で役人の頭に強烈な一撃が振り下ろされ役人は気絶した。
「貞治様、この者をいかがいたしますか?」
「幕府の役人として不適格であるため、役職を解任の上幕府への反逆の罪により牢に入れよ。
この家の者には今回の件の責任をとらせるための賠償金を支払わせろ。」
「はっ!」
男が幕府の役人である事を示す羽織を剥ぎ取られて縄で縛られて引きずられて行くのを見た後で
「ご主人、この度は下級役人とはいえ大変ご迷惑をおかけしました。あのごみの支払いは私の方で行います。
後日、賠償金が揃えばそちらもお持ちいたします。
今後も幕府の役人やそれを語る者から迷惑行為を受けたら彦根藩屋敷の脇貞治に御一報ください。」
僕は安政の大獄に対抗するために1つの策をとっていた。幕府を語り悪行を行う者達を派手に捕まえる事だ。
現状では直弼様が少しでも反発する者を強硬的に捕まえていると思われているが、一部の者は幕府の権威を笠に着てやりたい方題している無法者となっているため、それを彦根藩の名前を出して取り締まることにより、直弼様が悪いのではないとの印象を広めている。
あとはかなり前から準備していた彦根での死刑囚集めに問題が起きたとの連絡を岡本半介から受けた事も影響している。人数は揃っていたが仕事を一生懸命に取り組み更正した者が増えてきて殺すための要員にするより真面目に働かせた方が良いと判断できる者が増えたらしい。
何より、取り締まりの人数が多いため、それと同数を彦根から江戸までつれてくるのが難しくなっていた。
それもあって江戸やその周辺から人員の補充をしなければいけない事態へとなったのだ。
都合良くごみ拾いをしながら必要な備品を揃えられるのであれば一石二鳥である。
僕の小さな抵抗として安政の大獄を不正を犯す役人や悪人を大量に取り締まったに変えられないかと考えたのもある。残念ながらそちらのもくろみは上手くいっていないが少なくとも直弼様の印象の低下は防げている。
このまま続けていけたらと思う。
「貞治様、向こうでも役人が理不尽な事を…」
「心得た、すぐに向かおう。」
木刀を握りしめて僕は走り回っていた。
例え、川の流れに逆らえない小石だったとしても積み重ねれば本流から支流を生めると信じて。