第百五十二幕
「ご報告します。京都の長野殿は公家の方々に条約の説明をされて理解を広められていたようです。
関白・太閤などの天皇の近くまで条約の承認を得られていたようですが、結局は天皇からの許しが出なかったようです。」
「堀田殿は勅許について楽観的に考えられていたのに上手くいかなかったことに焦られているだろうな。
それで長野殿の方は何か言ってきたのか?」
江戸で京都の様子を聞いた直弼様が聞いた。報告に来た家臣が
「長野様からは特に報告は来ていません。京都の方で情報を得てきましたが長野様からの接触はありませんでした。機会はいくらかあったと思うので報告する事がなかったのではと思います。」
「わかった、新しい情報が入ったら報告を頼む。」
家臣が退室すると直弼様が僕に向かって
「長野殿は報告をしなかったのかできなかったのかどちらだと思う?」
「長野殿からすれば失敗は何もしていないですし、成功していたといっても過言ではないと思います。そうなると報告できる要素がなかった、あるいは今何かをしている途中で報告の段階ではないからしなかったのかもしれませんね。将軍継嗣で一橋派に後れを取っていたとの情報もありますので今はそっちに重きを置いてるのかもしれません。」
「そうなるとまだお忙しいと考えといた方がよさそうだな。長野殿が条約にに関してできる事はなくなったと考えられるから将軍継嗣の方に全力を注いでもらう事にしよう。条約の方は堀田殿が何とかしてくれるだろう。」
「そうですね、長野殿にはそうお伝えしましょう。ハリスとの締結の約束期日までもう一か月もありませんので、何か動きはあると思います。」
「わかった。幕府の動きにも注意しておこう。条約締結は避けられないなら最悪、勅許なしでの締結もありうると思っておくべきだな。」
「そうですね。」
直弼様は色々と考えられたうえで歴史の情報通りに勅許なしでの締結に向かっている事を感じ取っているようだった。さすがに色々勉強されているので僕よりも詳しく予想ができている所に感心した。
直弼様の大老就任も条約調印も近づいて来ていた。