第百四十七幕
「貞治、一つ聞きたい事がある。」
「なんでしょうか?」
「最近、私のしてきた事を色んな人に話して回っているとの話を聞く。これは事実か?」
「主君の功績に感嘆したと世間話をしたところ、それを聞いた人達が広めてしまったようですね。」
直弼様は悩ましげに頭を掻いて
「なるほど意図的にではなく偶然そうなったと言いたいのだな?」
「誰にも行動の『結果』を知ることはできません。たまたま蹴り飛びした石が野良猫にあたり、驚いた猫が馬の前に飛び出して馬に乗ってた人が驚いて落馬するかもしれないなんて思いませんよね?たまたまそういう気分の時に話をしてそれが聞いた人の受け取りかたで広まったなら僕の預かり知らぬ話ではないでしょうか?」
「貞治の望む事は未来で決まっている事か?」
直弼様は真剣な顔で聞いてきた。僕の目的を見透かしたようなその目を見て僕も真剣な顔で
「変えられない道があって行く先が落とし穴だと知っているなら、穴に落ちないように道を変えたいと思う事は悪い事ですか?
道がダメなら草を踏み分けて落とし穴に行かない自分の道を作れば良い。僕はそう思ってます。」
「私が大老になる未来は決まっているという事か。その先に苦難があるという事だな。貞治、無理はするなよ。
私のわがままでお前は私に未来を伝えないが、どんな未来が来ても私の人生だ。貞治に責任はないのだぞ?」
「承知しています。だからこそ一家臣として共に歩んできた者として直弼様の幸せを願い実現させたいと思うのが僕の人生です。
直弼様も僕の人生に責任を持つ必要はありません。
僕が選んだ道ですから、僕の歩き方をしてみます。」
僕の覚悟を読み取ったのか直弼様は浅くため息をついて
「わかった、わかった。お互いに思う所があり、それがお互いを思いやるがためのすれ違いなら話は平行線になるだけだな。
私を大老にする動きは今に始まった事ではない。なら受け入れて前に進めるように私も準備しておくとしよう。」
直弼は諦めたように言った。
「アメリカとの交渉があります。英語で話せれば相手に大きな衝撃を与えられるでしょう。復習を忘れずにお願いします。」
僕はそう言って頭を下げた。