第百四十六幕
「主膳様、江戸では直弼様を大老にする動きが活発になっているようですが、我々は京にいてよろしいのですか?
この大事な時に傍にいた方が重要な役職などを貰えるのでは?」
長野主膳は京都にいた。次にアメリカはきっと通商条約を結ぶために迫ってくる。以前の和親条約時に天皇が幕府の独断での条約締結を激しく非難した事を考えると朝廷を無視し続ける事は得策ではない。ここで直弼様が大老に就任すればおそらく通商条約の責任者は直弼様になる。
今ここで朝廷との架け橋になる存在になり、条約締結時に関係を取り持てれば直弼様の小間使い程度の役職などではなく、それ以上の役職やあるいは朝廷での役職を賜れるかもしれない。
それを思うなら今は京で人脈づくりと工作を進めた方が良い。
「問題ない。私には私のやる事があり、私にしかできない方法で直弼様に貢献している。」
「そうですか。」
門派の男は心配そうに言い下がっていった。
しょせんはまだまだ学んでいる最中の者であり私の考えにはまだ及ばないのだろう。
脇貞治のように直弼様の金魚のふんでいるだけではない所をしっかりと見せて私の評価を高めていつか独り立ちしてみせる。
気の合う茶飲み友達であり主君としても問題のない男だが、それだけでは今後の時代には足りないだろう。
裏切るつもりは毛頭ないがいつまでも下にいるつもりはない。
私こそが時代を切り開く者なのだ。
私には幕府のみならず朝廷からも頼られる存在になった自分の未来像が見えていた。