第百四十幕
近ごろ僕は散歩をしながら考え事をする事が増えていた。主な理由としては内容が過去の事ではなく現在の事でもなく未来の事だからだ。誰かに相談もできないし仮定の話にしては遠くない未来に起こる事だから不信感が生まれてしまう。
どうしようもなくなり散歩しながらの方法になったのだ。
歩いているうちにまたしても人だかりができているが、この前のように吉田松陰がいるわけではなく、何やらお芝居をしているようだ。旅の一座がそういった芸を披露しているのは珍しい事ではない。残念ながらお芝居は後半に差し掛かっているようだ。
幸いなのか僕はこの時代の人からすると背が高いから後ろの方からでもお芝居を見る事ができた。
どうやら町娘が六人くらいの暴漢に襲われている所を老人と二人のお共が助けに入っているようだ。老人役が
「スケさん、カクさんやってしまいなさい。」
その言葉と共に見事な殺陣が披露され一通り相手を倒したところでスケさん役が
「控えろ!この紋所が目に入らぬか!」
そう言って印籠を取り出した。ここまで来て僕は今まで感じていた既視感の理由を思い出した。
「これ水戸黄門だ……………」
僕もあまり見た事はないが現代では有名な時代劇だ。
僕は驚いたあまりボソッと声に出してしまった。すると隣に同年代か少し年上の人が来て、
「やはり、あなたは未来人でしたか。」
僕は慌ててその人を見ると男性はにこやかに続けた。
「初めまして先の副将軍水戸光國公が子孫、斉昭です。」
「その言い方だとあなたもそうだと言っておられるようにきこえますが?」
「私の脚本はお気に召しませんでしたか?」
「ミステリーよりサスペンスの方が好きなタイプなんですよ。」
「まぁ、ご安心下さい。危害を加えるつもりはありません。少しお話がしたいと思っていた阿だけなんですよ。良ければもう少し静かな所に移動しませんか?少しお芝居が盛況になりすぎたようです。」
「かしこまりました。」
二人で少し離れた場所に移動した。