第百三十五幕
「貞治様、西村殿から伝言を預かりましたのでお伝えさせて頂いてよろしいでしょうか?」
江戸屋敷の執務室で書類を見ていた僕のもとに藩士が一人会いに来た。おそらくは半介の返事を持ってきたものだろう。
思っていたよりも早い反応にさすがだなと僕は思った。
「どうぞ。」
藩士は一礼してから
「西村殿からの伝言でございます。
多賀大社の本殿を含む建物の老朽化や補強工事のために多賀の森を一部伐採し木材の確保をしたい、伐採に必要な人員も貞治様が以前言っておられた方々を徴用すれば十分に確保できると思われる。一度に木材の確保をするのは難しいだろうから集落を作りそこを拠点として林業を行う者を集めようと思うがいかがでしょうかとの事です。」
「なるほど、多賀の森を一部に集落ですか。
よい案だと思います。直弼様に確認してまたご連絡するとお伝えいただけますか?」
「承知いたしました。」
藩士はもう一度礼をして部屋をでていった。
多賀大社は伝統のある神社でその建物も古くなってきている。
その補強と修繕には木材が必要になるが、森の中での作業は力仕事だし危険を伴うために担い手不足は指摘されていた。
今回、半介が目を付けたのは大勢が一ヶ所に集まっていてもおかしくないように見せるための正当化できる方法だ。
刑罰としてあまり人がやりたくない仕事を任せるのは良いことだし、神社のための仕事なら死罪となった者でも恩赦を期待できる案件なだけにやる気にも繋がるだろう。騙すような形になり罪悪感は感じる。いくら頑張って木材を切り励んでも待つのは江戸での死だからだ。さすがに必要人数を超えて集まっていたなら真面目に働いた者から恩赦を与えるようにはしたいが、いつ起こるかわからない現状で百人以上を集めるとなると悠長には言ってあられないし罪人を他の藩からわけて貰うと計画がばれる可能性もあるのでできるだけ彦根藩内での事にしておきたい。
難しいお願いに協力して貰えただけでなく、ここまで最適な策を考えてくれた半介に感謝しかない。
僕は死罪の者の隔離場所という点を伏せて、大社の修繕のために森の伐採の許可と集落作りの許可を求めるために直弼様のもとへと向かった。