第百三十四幕
『半介、今回の依頼に関しては君の将来にも影響を及ぼす重大な事案です。君が納得できなければそのままこの手紙を燃やしてくれてかまいません。これは私の特別な出自により知っている未来への対処のためであり聞く人からすればただの絵空事だと思うでしょう。私の特別な出自とは私が二百年後の未来から来た未来人だという事です。私の生まれた時代に武士という存在はなく歴史で習う事や物語に登場するだけです。どの家庭の子供も七歳になる頃から学舎に通います。その学舎を小学校や中学校、高校と言い、さらに大学という専門的な事を学ぶ場所もありました。
私は高校生の頃に突然この時代に飛ばされたために高校までに習う歴史や地理、そして英語の知識を直弼様や君達に伝えてきました。でも、決して勘違いして欲しくないのは直弼様にはこの時代の出来事やこの先の未来を教えてはいません。
これは私がこの時代に来た時に直弼様が自ら私に伝えてきたからです。私のつたない知識では何年にどのような出来事がある等は覚えていませんでしたし、細かい所まで知っている訳でもありません。もしかしたらつたない知識のせいで間違っていることを伝えてきたかもしれません。
ここまでを信じて貰えたなら読み進めて下さい。
これから何年かの間に必ずアメリカとの通商条約が結ばれ、その矢面に直弼様が立たされる事になります。
そしてこの批判した人物達が捕えられ一部の者が処刑されます。
これはおそらく直弼様の意思ではなく周りの合議によると思います。この未来はどうやっても避けられないと強く感じています。
なので、今現在とこれから彦根藩で死罪となった者を特別な牢を作りそこに貯めて置いて欲しいのです。
百人は必要でそれ以上になる可能性もあります。無理に死罪の者を増やさなくても良いのでできるだけ確保してください。
本来処刑されるはずだった者と入れ替え死罪の者を江戸で身代わりに処刑します。その手はずは私が整えます。
入れ替えた者を一時的に隠しておく場所の確保もお願いします。
冒頭でも言いましたが、これは大きな賭けです。
君に迷惑だと思われたならこの話は見なかった事にして下さい。
これは指示でも命令でもなくお願いです。
直弼様を暗君にしないために私がちょこちょこと動いているだけです。良ければご協力下さい。』
貞治様が未来人………まぁ、無くもないか。
この時代でどうやってあんなにも国外情勢に詳しいのかと不思議に思っていた。それにたくさんの事を学ぶうちに抱えていた違和感もそうだったのだとすれば納得できた。
元々死罪の者を江戸で処刑にして、助けるべき命を助けようとする貞治様の案を無下にするわけにはいかない。
何より藩主の汚名は藩の汚名である。
まずは藩内の死罪の者がどれだけいるのかとその隔離場所の確保を進めようと半介は動き出した。