第百三十一幕
「斉昭殿は今回の堀田正睦殿の老中首座就任についていかがお考えなのですか?」
水戸藩と仲の良い藩の藩主が数人集まって話していた時にひとりが聞いた。
「阿部殿とは懇意にさせてもらっていたのに今回の事は寝耳に水でして。本当に遺憾ですな。
老中首座という重職を決めるのに徳川御三家になんの伺いもなく決めてしまうとは。
あり得ない話だと思っておりますよ。」
実際には阿倍正弘から事前に話を聞いていたがここは知らなかった事にした方が都合がいい。
「何もなかったんですか?」
「ええ、まったく相談もなく自分はカカシ同然だと思うと憤りを感じますね。」
ここまで言っておけばこの者達によって勝手に広めてくれるだろう。
「そうでしょうな。ですが斉昭殿は何も対応をされておりませんよね?何か思惑でもおありなんですか?」
「下田のアメリカ総領事ハリスが何やら嗅ぎまわっているとのうわさがありましてね。
幕府内で不和があると思われれば揚げ足を採られるかもしれませんからね。
おそらくは通商の条約を結ぶために上府を願ってくるでしょう。
その時に敵対関係の判別をつけられると向こうに都合のいい方が利用されかねませんからね。」
「なるほど、確かにそうですな。」
安政二年の十一月になったばかりであるから、ハリスが正式に上府を願い出る安政三年8月までは半年ほどあるからここにいる者達には未来予知みたいになっているだろう。
下田にアメリカ領事館を置く事にすら反対している者がいる上に江戸にまで上府させては国の恥になるとまでいう者達もいるだろう。
溜詰間の者達も反対して堀田正睦が困惑する中で結局、十月頃にハリスは上府して将軍家定に面会し堀田の屋敷で会談も行われる。その流れを汲んで通商条約にまで繋がっている。
これが何もなかった未来であり誰かに邪魔された未来ではない事が前提になっている。
私は調整者としてこの未来がそのまま起こるように誘導しないといけない。
使えるものは何でも使っていこうと思っているが転生者や転移者にどんな邪魔を入れられるかわからないからこそしっかりと外堀から埋めていこうと思う。
まだまだ将軍継嗣問題も用意しとかないといけない。最終的には息子の慶喜を将軍にして隠居しながら裏で世の中の調整をしていくことが理想となってきている。この時代の人の寿命は思ったよりも早く来る。病気に殺傷沙汰もあるからこそいつ死ぬかもわからないからこそしっかりと準備はしていこうと思った。