第百二十八幕
屋敷の倒壊により避難していた天幕に家臣が走り込んできて
「失礼致します。老中首座阿部正弘様がご面会をご要望です。」
斉昭は少し考えた。こちらも多くの家臣を失い右往左往している状況で信頼していた家臣も死んでしまった事が問題を大きくしている。もともと一人で何でもできるが人手が必要な時は任せられる人間というのが大事だった。
おそらく復興に向けた予算の配分やこれを機に外国勢力、特にアメリカのハリスから支援の代わりに通商の条約を迫られる可能性もある。現在の状況では正常な判断ができない可能性がありむずかしい状態になっているだろう。
「もう来ているのか?」
「はい、門の所でお待ち頂いております。」
「わかった、ここにお連れしろ。倒壊の恐れのある壁や建物からは離れた道を通り安全にお連れしろ。」
「承知いたしました。」
少しすると以前あった時よりも更に老けた印象を受ける阿部がやって来た。
「ああ、阿部殿ご無事でしたか。当家は建物の倒壊や信を置いていた家臣も巻き込まれてしまいバタバタとしてしまい対応が遅れてしまって申し訳ない。」
「いえ、ご傷心のところ突然の訪問で申し訳ありません。
黒船来航以来、度重なる心労のためか体調も優れず老中首座の立場を辞そうと思っております。
そのため次の老中首座を下総国佐倉藩主堀田正篤殿にお任せしようと思っており、それについてご意見を頂きたく思うのですがいかがでしょうか?」
ふむ、もう音をあげたかと言うのが正直な気持ちだが時期的にはそろそろだろうとは思っていた。だが、ここでは難色を示しておこう。斉昭は強硬な攘夷派で堀田正篤、後に解明して正睦になる男は開国通商派と相容れない存在だからすんなり受け入れるのはおかしな話だ。
「なぜ堀田殿を?」
「今後の課題はいかに地震による被害から立ち直るかとアメリカへの対応となってくるでしょうし他にも解決すべき課題は山積みです。これを解決できる者などいないでしょう。
そうなれば誰が泥を飲むのかという話になるわけです。
斉昭殿周囲の方にこの苦行を押し付けるくらいなら、敵対派閥に投げてしまう方がいいでしょう。
何より堀田殿は優秀でその政治手腕はすごいですからね。任されてもおかしくないという人物ではあります。」
「なるほど。ですが、彼に好き勝手されてしまうのも我々にとっては脅威です。そこについてはどうでしょうか?」
「私が後援に入ります。前には出ませんができるだけ私が今までと同じように動かそうと思っています。」
「なるほど、では堀田殿は看板にするということですね。
そう言うことであれは私から何か文句を言うことはないですね。」
「ご理解ありがとうございます、ではそのように取り計らいますね。」
阿部はそう言って帰っていった。