第百二十七幕
バタバタと走り回る音がひっきりなしに続いている。
屋敷にいた者が全員何とか庭に作った天幕に避難できた。
今は揺れも落ち着いたため、屋敷の状況を調べている段階だ。
屋敷は外壁の一部がはがれたくらいでたいした損傷は見つからなかった。まだ見きれてない柱等もあるだろうから安心はできないがひとまずの安全は確保できた。
僕は彦根藩上屋敷の中を確認する事に手一杯になっていた所に血相を変えた藩士が走り込んできて、
「ご報告致します。
近隣の藩屋敷の多くが損壊並びに倒壊しており、多数の死者や負傷者が出ており、さらに行方不明者もいるようで、捜索を行うための人員を貸して頂きたいとの申し出が来ております。
いかがいたしましょうか?」
僕は直弼様を見ると直弼様はすぐに
「我が藩は負傷者もおらず建物の損壊も軽微だ。動ける者を編成し各藩の屋敷の手伝いに回せ。ただし藩士の安全を第一とし無理はするなと厳命せよ。」
「承知しました。」
「あと、各藩の藩主や重臣の安否確認をして報告をしてくれ。
藩士の編成は五人一組で行い、女中の方々には炊き出しの準備をしてくれるように頼め。」
僕が指示を出すと中川禄朗先生が
「炊き出しですか?」
「屋敷が倒壊したりしたのであれば食料も確保できていないでしょう。被害が軽微な彦根藩が中心になり支援を行えば同じように軽微な被害の藩も同調せざるを得ないでしょう。
今は安全の確保と治安の安定化が最優先です。
またいつ揺れるかわからないからこそ、備えも万全にしましょう。彦根藩に早馬を送り保存食を運ばせましょう。
道中の藩には江戸での出来事を触れ回り食料の支援を呼び掛けさせましょう。」
「確かにいち早く行動すれば、彦根藩の名声もあがりそうですな。手配してきましょう。」
中川先生は何か誤解しているようだったが直弼様は
「人道の支援を最優先だ。名声などのために人助けをするなど愚の骨頂だろう。まことに忙しない人だな。」
「そうですね。」
その後、各藩からの被害状況の報告を受けた。
「江戸の中でも一万戸以上の倒壊と炎上による被害が出てます。
福山藩、越前勝山藩、鳥取藩の上屋敷は半壊で伊勢長島藩に至っては長屋も上屋敷も全壊しているようです。他にも建物の倒壊により家臣を亡くされた方が多いみたいです。」
「わかった。支援を求めてきた藩があれば報告してくれ。」
「承知しました。」
思っていた以上に被害が多かったし、自分が学んでいた事がここまで悲惨な状況だとは思っていなかった。やはり、文字で見るだけではわからない事もたくさんあるのだなと改めて思った。