第百二十一幕
阿部正弘はかなりやつれた顔で斉昭の元を訪れた。
まったく幕府の老中首座なのに人の家に来るのが好きな男だ。
見た目が老け込んでいたから最近まで勘違いしていたが、この男はまだ37歳だという。
まったく年上だと思っていた男が10近くしたの男だとは私はどうやら人の見た目を見る才能はないようだ。自分に対して嘲笑を浮かべると阿部殿が不安そうに
「いかがされましたか?」
「いえ、私自身がまだまだ精進せねばと思っていただけですよ。
本日はいかがしましたか?」
「実は老中首座から退きたいと思っております。
今回の和親条約はおそらく失敗です。その責をとるのは私しかいないと考えております。」
「なるほど、お気持ちわかります。私も海防参与を辞職しようと思っておりました。私がもっと皆を導けていればこのような事にもならなかったでしょう。責任は私にもありますから阿部殿がひとりで抱える必要はありません。
まぁ、私がこう言ってもあなたが決めてしまったなら仕方ない。
あとは他の幕僚がなんというかの問題ですから。」
「いえ、私が行き届かないばかりに斉昭殿にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。」
阿部殿はトボトボと出ていった。
まぁ、彼はここまで良くやってくれた。だが、彼は遺留されるだろうし彼の辞職まではまだ2年くらいある。
とりあえず考えなければ行けないのは、8月に英国、12月にロシア、来年の2月にはオランダとも和親条約を結ぶ事になり、今回の日米和親条約が祖法となってしまう事だ。
まぁ、歴史通りだから問題はないが幕府の中にも今回の条約に異論を突きつける者が多いために改変に動かれてもややこしい事になる。だからといって自分が動きすぎるのも面倒だ。
孝明天皇がかなり攘夷思想が強いと関白の鷹司政通からも聞いている。8年前に一度、孝天皇が即位したばかりの頃に政通に焚き付けさせて海防に関わる御沙汰書きを送らせた事があったがこれにより朝廷の発言力も高まっている。
とりあえず、朝廷を上手く使って幕府に圧力をかけてみよう。
面白いことになれば良いなと斉昭はほくそ笑んだ。