第百十二幕
「どうやら、斉昭殿が強硬論を出した事により幕府内も開国論に傾いたらしいです。」
長野主膳が門弟達に集めさせた情報を報告した。
「斉昭殿の主張も聞いてみたが、あの方自身は最初から交戦するつもりはなかったのではないかと思う。阿部殿がすぐに諌められたという話もあるから一番激しい強硬論を出して、それ以上に傾けないのと反戦に政敵を回らせる事で反対されずに反戦の方向に導いたともとれるな。」
直弼様が言い、中川禄朗先生が
「今後、世界の動きを見ながら鎖国を続けるのかも考えなければいけませんね。貞治殿は鎖国についてどう思われますか?」
「外国勢力には最新の技術があります。日本がまだ学べていない知識や発見による兵器が投入されれば戦争では勝てないでしょう。鎖国は終わりを迎えていると思います。」
「なんと!開国するべきだとおっしゃるのですか?」
主膳は気に入らないと言う感じで僕を見た。
「長野殿は日本の歴史にお詳しいですから鎌倉幕府の統治時に蒙古襲来についてもご存知だと思いますが、多対一の集団戦法や当時では知られていなかった火薬による兵器等を前に鎌倉幕府の屈強な武士達は苦戦を強いられ、台風が味方してくれなければ日本は元国の属国となっていたでしょう。
つまり、未知の戦術に兵器、天候に左右されない軍艦がある外国に勝てる見込みはありません。
今、交戦して敗戦国になれば我らは搾取の対象となるでしょう。
逆に友好国となり時を稼げば対策の幅はまだ残されます。」
「オランダや清に援軍を貰えば保護して貰えるのではないか?」
「残念ながらオランダではアメリカには敵わないでしょう。反れに通商国であるだけの存在にそこまで軍を動かす事はないでしょう。清に関しては今はイギリスとの揉め事で日本に援軍を送れる状況ではありません。この二国に助けを求めて窮地を脱したとして、次から次にやってくる諸外国をいつまでも退け続けるのは不可能です。逆に弱味を見せたことにより二国に狙われることもあります。
アメリカと交戦して弱ったところを攻撃されないとも言いきれませんしね。」
「うーん、なるほどな。開国してこの国は大丈夫なのか?」
「長野殿が心配するほど国のあり方が変わることもないでしょう。通商相手が増えるくらいだと思います。」
「アメリカが侵略に来る可能性は?」
直弼様の問いに僕は
「ないと思います。これは私の知識に基づいた勘のようなものですからなぜかと聞かれてもお答えできませんが侵略はしてこないでしょう。」
「幕府の決定と対応が発表されるまではのんびりとでにそうだな。」直弼がそう言って今日の会議を終えた。