第百十幕
「斉昭殿、貴方の言う通り旧来の幕府の独裁体制を見直し、親藩・譜代・外様の境目なく意見を集めてみました。」
「阿部殿の幕政改革には肯定的な噂しか耳にしていませんよ。それでいかがでしたか?」
「やはりほとんどの藩が拒絶派のようでしたね。数人の大名が開国論を唱えましたが一時の通商を認める程度の話でした。」
「まあ、そうなるでしょうね。そうなると私はさらに強硬論を提唱して中間論を採用する流れを作った方がよさそうですね。」
「斉昭殿がそこまでする必要がありますか?ほっといてもその流れになるのではないですか?」
「その流れを引き出すのに時間がかかると強硬的に排除する準備を始めてしまう所が出てくるかもしれません。そうなると余計な出費をする事になったりそれを倒幕に流用されたりするかもしれません。
早期に流れを作って余計な事をさせないようにしないといけないですからね。」
「なるほど・・外国からの問題を解決する名目で戦力増強を図るところも増えてしまうかもしれませんね。ですが具体的にはどういう感じにされますか?」
「そうですね、まずは十条くらいの感じでだして追加で三条くらい付け加えてダメ押しをして、他の大名の方に大反対をされるのがよさそうですね。
まずは国を挙げて総力戦をする旨を伝え武士、農民、商人にかかわらず質素倹約に取り組ませる事、オランダに鉄砲や艦船を献上させて幕府としての戦力を充実させる事や大砲を鋳造したり大型戦艦を建造するための必要な素材を集める事、槍剣術の修練を積ませる事、海岸の要所に兵士を駐屯させておく事などを提案します。最後に江戸湾警備の四家を移動させない事や人材を登用して兵力を各藩充実させる事、諸大名の妻子を国元に帰す事なども付け加えましょう。あとは海岸の民家を取りはらう事なども入れましょう。」
「一見するとそこまで悪くもないですね。ですが、やはり反対する者の方が多そうですね。
その提案をされて斉昭殿の評判が落ちないかが心配ですね。」
「まあ、一度くらいはとがった発言をしておかないといけないですから。私の評判を高くする事よりも幕府をうまく回す事の方が大事ですからね。」
「では、そのように進めておきましょうか。ですがそんなに正面から反対する者が出てくるでしょうか?」
「そこに関しては出てくる人がいなければ事前に肥前守殿に頼んでおきますよ。」
「そこも仕込みをされるのですか?」
「まあ予想外の事が起きても困りますからね。万全を期しておきましょう。」
「そうですね、すべてお任せしますよ。」
阿部はそう言って頭を下げて退室していった。