第百九幕
時は少し遡り……
「吉田殿、この風景をどのようにおもいますか?」
ペリーの黒船を眺めていた20代半ばの男は声をかけられて振り返る。そして笑顔で
「今までに見た事もない景色に驚いております。
何よりアメリカの技術がこんなにも進んでいるとは思いませんでした。やはり日本に入ってくる書物には実際と少し時間軸がずれているようですね。最新の本ではなく、少し古い本なのかもしれないです。それとも、わざとこちらに最新技術をしらせないようにしているのかまたはヨーロッパよりもアメリカの方が格段に進歩を遂げているのか。とても興味深いですね。」
「この距離から技術力に称賛を送るのは吉田殿くらいのものですよ。吉田殿は日本がどうなるとお考えですか?」
「開国という道は避けられないでしょう。
あれほどの技術があれば軍事力も計り知れないですから。
ですが、距離があるからこそこちらには準備の期間があります。
一度くらいは日本にも戦力があることを見せるために攻撃しておいた方が今後の交渉にも良くなるとは思いますね。」
「幕府はそのように動きますか?」
「老中首座の阿部殿にも面識がありますが、彼にはその判断はできないでしょう。最近、懇意にされていると噂の水戸斉昭殿も表面上は反対派ですが実際は開国をしなければいけないとおわかりだと思います。なので、穏便に開国へと向かうでしょう。
つまり、一矢も報いずに開国はされるでしょう。
問題は通商になるタイミングでいかに力を見せられるかです。」
「開国するかどうかの返答は来春に再来した時にとの話のようですよ。来春には通商の話まで進みますか?」
「いえ、来春はまだ港の開港にとどまるでしょう。ですが、時間の問題です。少しでも条約に反した行動があれば攻勢に出るくらいしないとなめられたままになるでしょう。」
「来春に来航した時に少し脅してみますか?」
「そうですね、我が刃の恐ろしさでもご披露いたしましょうか。」
吉田と呼ばれた男は屈託のない笑顔を見せて言った。
彼は吉田松陰と呼ばれる学者であり、歴史上にその思想を多く残す人物である。