第百五幕
「貞治、今日は大事な話がある。」
義父に屋敷に呼ばれて対面すると真剣な顔で言った。
「どうされたんですか?」
「直弼様が藩主となり側近と呼ばれる者も増えてきた。
お前はこのままで良いのか?」
「え~と、特に問題があるとは思っておりませんが何かご不安な事でもありましたか?」
「それは心配もするだろう。お前は他の者にも仕事を任せる余裕もできたのに妻を迎える事もないとはどういう事だ?」
あぁ、いつものあれかと納得する。義父は以前より僕が結婚しない事を心配していた。僕もしたくないとは言わないが忙しかった事と未来から来た僕が結婚して子供ができたとして何か歴史に影響が出てしまうのではないかと不安になる事もある。
だが、その辺の懸念は伝えずに義父には忙しいからとだけ伝えてこの話題から逃げていた。
最近な直弼様の回りに頼もしい人達が集まり支える体制が整い僕自身も少し仕事を減らす事ができている。忙しくなくなったのだから結婚しろとの催促に呼ばれたのかとため息をついた。
「そう言うのは巡り合わせだと思っております。良い縁があればその時に考えますよ。」
「そうか………………」
義父は短く言って何かを待っているように見えた。遠くから鈴の音が聞こえると義父はまた一段と真剣な顔になり、
「すまないな。真剣に聞きたかったのは別の事なのだ。だが、これは人には聞かれてはいけない事だからな。」
「なんでしょうか?」
「貞治が直弼様と約束している事は重々承知だし、その約束を果たし続けている事もわかっている。だが、私は直弼様の未来が心配で仕方がない。今回の黒船来航も貞治は知っていたのだろう?」
「そうですね。歴史を学ぶ上では避けては通らない道ではありますから。」
「直弼様はこの件に何か関係されるのか?」
「残念ながら深く関わる事になります。」
「そうか……、それは変えられない事か?」
「変えたとして、誰かが代わりになるだけです。
結果は変わりませんし、より悪くなる可能性もあります。」
「そうか、残念だ。」
「詳しくは聞かれないのですか?」
義父は悩んでいたが何かを吹っ切ったように
「よし、聞かないでおこう。老い先短いジジイとはいえ何が起こるかわかって生きるのは楽しくないからな。
もう隠居して高みの見物とさせて貰おう。悪かったな貞治。
何も口を出さないつもりではいるが、結婚はしろできたら子供も作れ!お前は特殊な生き方をしているがだからと言って皆が望む幸せを望んではいけないというわけではない。
未来がどうなるとか難しい事は考えずにお前が望んだままに生きて良いからな?」
僕は義父に話した事もない悩みを言い当てられさらに正論に聞こえるアドバイスまで貰ってしまった。
「承知いたしました。前向きに検討してみます。」
「おお、そうかそれならこの家の………………」
義父はお見合いリストのような物を出してきて僕に見せてきたので僕は少し後悔する事になるのだった。




