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革命的ロシアンたこ焼きTSF

作者: 津田善哉

 学校の帰り道に友人と寄ったカラオケ。利用時間も終盤に差し掛かってきた頃、ノック音が聴こえ、店員がたこ焼きを片手に入ってきた。

 途端に友人の深夜アニメオープニング曲の歌声が小さくなる。

 聴かれて恥ずかしいなら初めから歌わなければいいのだが、映像が有るからと入れた曲だった。歌声はさらにか細くなり、画面には萌えアニメの映像が流れている。

 「やっと来た。これ、ちょうど六個あるから。」

 奥の席からこの注文の犯人が声を挙げた。もうそろそろ終了だというのに、ここでたこ焼きは間が悪い。それにどうやら普通のものではなく、ロシアンルーレットたこ焼きだった。

 この中に一つ、ハズレがあるようだ。

 男六人でロシアンたこ焼きをしたところで何が楽しいのか。そもそも俺はこの手のロシアンルーレットが嫌いだった。もしもハズレのワサビ入り(もしくはカラシ入り。大体このどちらかである。)を引いた場合に何かしらのリアクションをしなければならない。普通に辛がってはつまらないし、大げさにしても白ける。その塩梅が難しいのだ。これで盛り上がった試しがない。

 半面、ハズレがある意味でアタリでもあり、とにかくややこしい。こんなのは女子がいてやっと初めて面白いのではないか。いや、女子がいてもつまらないかもしれない。

 「ハズレ引いた奴はこの後、駅前でナンパな!」

 全く不毛な罰ゲームだった。この面子で誰がナンパしようと成功するわけがない。そんな器量や甲斐性があれば、そもそもここに女子がいるはずなのだ。男の汚い裏声でアニソンを歌い聴く苦しみもなかった。

 各々がたこ焼きを選ぶと、合図で一斉に口へ放り込む。二、三回咀嚼すると、口の中で何かが弾けた。

 スパーク…!

 俺が当たりだ…!


 “今日から、俺は女になった”


 あんなに剛毛だった髪は猫のように柔らかくサラサラに流れ、肌も白くきめ細かい柔肌になった。そして何より、胸が膨らんでいる!

 思わず自分の胸を両手で鷲掴みにする。掌から零れ落ちるような質量でありながら、まるでマシュマロのように柔らかい…!ありきたりの表現なのは語彙力と経験の無さによるところで、これ以外の表現を俺は知らない。

 これはクラスの女子の美乳ランキング(有志が非公式で査定。)でも上位にランクインするに違いない。


 それから一時間延長し、時間終了の内線電話が鳴るまで、俺は一人で歌い続けた。男五人が自分では高音で歌えない、且つ女子に歌ってほしいアニソンをデンモクで送信し続け、それに俺が答える形となった。

 女になって分かったことがある。男たちから向けられる視線である。自分では何気なく、上手くカモフラージュしているつもりかもしれないが、先程から明らかに胸を見ている。夏服の半袖ワイシャツの下は白シャツのみで、どうしても小刻みに揺れる乳房へ目線がいく。透け具合も気になる。

 俺も女子からはこのように映っていたのか。いつもこんな視線に耐えていたとは。これにスカートでも穿いた日には、その脚へも視線を受けるのだから堪ったものではない。これまでの自分を叱責してやりたい気分だった。全部バレていること、もっと上手くやるようにと。

 その視線よりも、もっと気にかかることがある。匂いだ。カラオケの狭い個室に充満する、男たち特有のムワッとした空気である。

 こんなに臭かっただろうか。さっきまで俺はよく平気で居られたものだ。誰も制汗スプレーや汗拭きシートを持っていないのだろうか。俺もこの匂いの発端の一部であったとは受け入れ難い。


 カラオケの代金は奢りだった。俺は女子だから払わなくていいらしい。明日も遊ぼうと誘われたが、やんわり断っておいた。

 明日は下着や服を買いに行きたい。それに制服もどうしようか。あのセーラー服は似合うだろうか。美容院にも行きたい。化粧も覚えたい。

 女というものをもっと知りたい。


 ”明日から、私は恋をしにいく”

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