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お題シリーズ

不穏の影 和平交渉前日

作者: 透坂雨音



 空に大きな月が浮かんでいる。

 その周囲には静かに光り輝く星達がよりそっていて、闇の中にかすかな彩りをもたらしていた。


 俺はそんな時間、国の中で一番大きな城の、立派なバルコニーにいる。

 ゆったりと星を眺められるスペースで、この国の未来のことについて想像し、物思いに沈んでいたのだ。


 そんな俺に、誰かが後ろから声をかけてきた。

 振り返えるとそこには俺が守るべき人が立っていた。


「また、ここにいたのね」


 そこには、淡い月の色を写し取ったかのような、金の髪と金の瞳を持った女性がいた。


 華奢な腕で体を抱く様子は、夜の空気に冷えたせいだろう。


「探させてしまいましたか」


 彼女は自分の姿を探していたのだろうか。


「気分転換に散歩したかったの」


 視線をそらしながら言い訳するようにそう述べる彼女は、一国の姫だ。

 本来は俺のような人間が、ただの騎士である自分が気安く口をきいて良い存在ではないというのに。


 だが、彼女はなぜか私の事を気にかけてくれている。


 それは一体なぜなのだろう。


 彼女が最初の公務で危険な目にあった時、助けたからだ。

 それから、騎士団の中でも名のある部隊に配属され、彼女を目にする機会がだんだん多くなった。


「もうすぐ、この戦いが終わるのね」

「ええ、そうですね」


 彼女が口にするのは、悲しみと憎しみの連鎖の終息。

 長きにわたって俺たちの国と、隣の国は争いあっていた。


 しかし、その戦いは明日で終わる。


 和平交渉がつづかなく終われば、もう誰も血を流さなてくてすむのだ。


 あの国にいる王子が、俺達と同じ思いでいる彼が、条件をのんでくれれば。


 俺は、城のてっぺんを見つめる。

 そこにはこの国の旗が立っていた。

 金のツバサをモチーフにした旗だ。


 隣国には、銀のツバサをモチーフにした旗がある。

 和平交渉が終われば、二つのツバサが共に並んだ旗が作られるかもしれない。


「姫様。平和になったら、あなたはもう危険な目に合わなくてもすむ」

「そうです。私も、あなたも。戦わなくてもよくなる。大勢の人が平和に暮らせる」

「これまでに亡くなっていった人達の魂もきっと安らかに眠れるようになるでしょうね」

「ええ、きっと」


 俺たちはそれから静かな夜を過ごした。


 互いに同じ夜空を眺めながら、同じ思いを抱いて。






 雲が出てきて、月がかげる。

 そんな二人の姿を影がつつみこみ、真上でひるがえっていた城の旗も夜闇にのまれていった。




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