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エピローグ。





 朝、自分の温室で起きて野菜の世話をし、昼前に郊外に出来た温室へ向かう。


 馬車に揺られながら外を見ていたら、ふと頭によぎる前世の光景。


 前世で見る空は、いつもビルの向こうの小さな面積だけ。

 今世で空は広くて大きいことを知った。

 突然の雨に驚くなんてことない。

 雨雲は遠くからやってくる。それがはっきり見えるし、風の流れもビルに遮られないから、天気が変化するだろうってのもわかる。


「人は自然と一体なんだよなぁ」


 自然には魂が宿ってる。

 ここでは精霊と呼び、日本では万物に神が宿ると言っていた。八百万の神さまは本当にいたんだ。


 前世ではお天道様が見てるって教えもあったけど、ホントその通り。

 適当に手を抜いたら他人には見えてなくても、神様には見えてる。

 野菜作りだってそう。いい加減に開墾したら土質が悪いままで、作物はおいしくならない。


 私にできるのはただひたすら正直に自然と向き合っていくだけ。


「そういえば一面田んぼって風景、ここでは見てないなぁ」


 いつか稲作に挑戦するのもいいな。

 おいしいおにぎり食べたい。


 そんなことを考えてたら実験農地に到着する。

 温室をいくつも連ねて出来た広大な敷地ではすでに就労者たちが作業を開始していた。


「おはようございます」

「おはようございます、アイリーンさま」

「異常はありませんか?」

「青菜の温室のガラスが割れてしまったようです」

「ケガ人は?」

「いません。たぶん昨夜の大風で何か飛んできたんでしょう。急ぎ修復をしています」

「そう。じゃあ私も手伝います!」

「いけませんて。無茶せず軽く歩き回るだけにしといてくださいよ」

「そんなに大事にしなくても、私丈夫だから」

「オレらが殿下に叱られます」

「そんな怖い人じゃないけどなぁ」

「そりゃアイリーンさまにはそうでしょうよ。とにかくオレらでやるんで、のんびりしといてくださいよ!」

「はいはい」


 私はまだ大きくならないお腹を撫でつつ、ゆっくりと各温室を見て回る。


 フラドの件から約五年。私はレイモンドさまと結婚し、この度目出度く第一子を身ごもった。

 普段は王宮の一画に住み、レイモンドさまが視察に出掛けているときは温室で寝起きしている。

 あの温室の守護が一番強いとリオネルさまの太鼓判付きだし、何より落ち着くし。


 レイモンドさまの事業は順調に、時に壁にぶち当たり…と大変そうだけど毎日楽しそうに働いている。

 現在は復興を終えたフラドで、温室を作る計画を実行に移すべく駆け回っているだろう。


 フラドではルイさんが領主代行に就任する話が浮上しているが、どうなったのかな。

 あれ以来訪れてないけど、またフラドの人たちに会いたい。


 私の考えに同意するように、私の足元を土の精霊たちが駆け回った。

 耳を、いや心を澄ませてみたら、そこかしこから小さな笑い声が聞こえてくる。

 精霊、そして植物たちの声。


 もしリノのように正気を失うようなことがあっても、この声が聞こえる限り、私はあなたたちを裏切らない。

 祝福を与えてくれてありがとう。

 大切にしたい。人も精霊も世界も。


 前世ではこんなこと考えず、ただ生きていた。

 それはそれで悪くはなかったと思う。

 前世は社会に出る前に終わり、結婚や出産を経験していない。

 だけど生まれ変わってたくさんの経験をし、子供を授かった。これからは本当に……初めて経験することばかり。

 想像もつかない生を生きることになる。

 その、生きるって言葉の意味を考える日々。


「アイリーンさま、豆の収穫を始めていいですか?」

「はい。手伝います!」


 株ごと掘り起こそうと考えた途端、金剛杖が鍬の形に変わった。聖遺物であるはずの相棒は神殿に戻らず、私の横にいつもある。


「あなたはレイモンドさまより長い時間一緒にいるから、私の考えはお見通しだね!」


 頼もしい相棒はブルブルと震えて同意してくれた。


「うん、これからもよろしくね」


 金剛杖と精霊と、私の大切な家族。今まで知り合った人たち。


 さくり、と鍬が土に刺さり、豆の株を根ごと掘り起こす。

 軽く土をふるい、手押し車に収穫物を乗せていく。

 手に触れた土から、ふわっとあたたかな気配。

 私たちはこの土を通して命をもらい、育んできた。


「ありがとう……」



 そして私は……今日も土と触れ合い、野菜を作る。








これにて完結となります。

お読み下さいましてありがとうございました。

また誤字報告や評価、メッセージもたくさん頂きまして、心より感謝申し上げます。


書き残したことを思い出したら、番外編としてアップするかもしれませんがひとまず完結とさせていただき、次作を書き始めるつもりです。

またどこかでお会いできましたら、ぜひご一読ください。


本当にどうもありがとうございました!





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