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●●●その時、彼らは。ダニエル●●●

短文ですが……。




 護衛対象を攫われるという大失態を犯した俺を、レイモンド殿下は責めなかった。

 それどころか、自分にも落ち度はあったとまで言ってもらった。

 その時の気持ちをなんて表現したらいいだろうか。

 学のない俺では当てはまる言葉も見つからず、ただひたすら頭が下がるだけ。


 わがローガン国王族は、建国以来代々人格者が多いと言われてきた。

 その通り数々の逸話を見聞きしてきたが、今もまたその片鱗に触れたと思う。


 これからも頼むと言われ、息が苦しくなるほど泣いてしまったが、それを恥だとは思わない。

 真摯な態度に心揺さぶられないほど、無感情ではないのだ。

 かくなる上は無事にアイリーンさまを助け出し、再びその身に害が及ばぬよう、尽力するだけ。



 そう決心していたのに……。



 一番に乗り込めって俺に言ってた本人が! 

 俺を置いて一人で!

 城の屋上にちらりと見えたアイリーンさま目掛けて!

 いきなり!

 ものすごい勢いで!

 城壁を駆け上っていった!



 火事場の馬鹿力か、愛ゆえか。



 猿にしか見えない殿下の尻を追いかけてみれば、アイリーンさまが今まさに斬られようとしているところだった。


 猿、もとい殿下は再び見たこともないようなダッシュで二人の間に割り込み、あっという間に凶漢を打ち払う。


 強い。


 剣の腕はそれほどでもないと聞いていたが、実戦でも太刀筋に迷いはなく、気迫も十分。もし騎士団にいたら、出世間違いなしだな。


 俺は焦燥感を覚えつつ、アイリーンさまの様子をざっと確認する。ケガはなさそうだ。

 いきなり現れた殿下にぽかんとし、事態が飲み込めてきたら安心したのか、子供のように泣いた。

 相変わらず、繕わない表情に素直さと愛嬌がある。


 殿下もそんなアイリーンさまを愛おしそうに眺めていて、こっちまで幸せな気分になった。

 凶漢を取り押さえ捕縛している間にアイリーンさまが再度、聖遺物を使って奇跡を起こす。


 俺は精霊を見たことがない。

 だけど、リオネルさまとアイリーンさまが祈りを捧げている間は、小さな丸い光がこのフラド城周辺を縦横無尽に飛んでいるのが視認できた。


 俺だけじゃなく、そこにいたすべての人間が目の当たりにした奇跡。


 普段、精霊を意識して生活していない。

 おとぎ話程度にしか思っていなかった存在が、実はこんなにいたなんて。


 俺たちは精霊にこうして囲まれて生きていたのか……。

 今までどれだけ精霊たちに助けてもらったりしたんだろう。


 よく知ってたはずの世界が、アイリーンさまたちによって塗り替えられていく。

 そして自然に感謝の念が浮かび上がった。


 さっきまで子供のような泣き顔を見せていたアイリーンさまだが、聖遺物を手に精霊を集める姿は光に包まれ神々しい。

 まさに聖女と呼ぶにふさわしい美しさ。


 その側に殿下が寄り添う。 


 一幅の絵画のような光景に俺は深く頭を下げる。

 この国の騎士になって、陛下の御前で忠誠を誓った。それを思い返してもう一度。


 身命を賭して、この国と精霊を守り抜く。


 決意新たに俺は凶漢を転がした。





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