●●●彼からの報告●●●
緑豊かな森の中、樹々に隠されるように建つ小さな屋敷。
そこを訪れた彼は慣れた足取りで案内も請わず、ある部屋を目指す。
「相変わらず室内だか庭だか分からない部屋だな」
木箱や陶器に栽培している植物が所狭しと置かれている。
壁や天井が見えないほど生い茂る植物たち。
その葉影に溶け込むよう設置されたソファに老人がいた。
彼を見るとおだやかに笑い、手でもう一方のソファを指す。
「今、お茶を運ばせます」
「長居は出来ないんだ。公務がたっぷり残されてる」
「ふらふらと国中を動き回るからです」
「それが俺の仕事でもあるからな。おかげで見つけた」
老人の眉がぴくりと動く。
「…見つけられましたか」
「あぁ、少女だ。すでに王都に来ている」
「扉は?」
「開けられた」
老人は大きく息を吐いた。
「ようございました。私の跡を継ぐ者がいて…」
「面白い少女だ。王子といても物怖じしないし、王宮に来ても平常心を保っている」
「そうですか」
「生真面目なところもある。両親ともに物腰はやわらかく言葉遣いはていねいで……」
軽く頷きながら老人は彼の話を聞いた。
「これで憂いが一つなくなりました。どうぞ大切になさってください」
「あの建物をか? それとも…」
「もちろん大地の祝福を得ている少女のことですよ」
部屋中の植物が老人に賛同するよう、ざわりと揺れた。