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逆ナイアガラ。




 そして私がどうしたかというと。


 現在、あてがわれた部屋で大人しく軟禁されている。

 その理由は……夜の闇の中で話し合う私とおじいさんのところへ風鳥が飛んできたからだ。

 以前リオネルさまに見せてもらったものと同じだと思うんだけど、あの時と違い、弱々しくて輪郭がぼやけている。

 でも宿る気配がリオネルさまだと感じた。

 私が伸ばした指に乗ると、風鳥はくちばしをパクパクさせる。

 言葉は出せないみたいだけど、触れた場所を通してイコライザーがかかったような声というかメッセージが伝わってきた。


 必ず助けるから待っていろ。


「リオネルさま…!」


 確かにリオネルさまの声だった。

 続けて、無茶はするなと告げれば、風鳥は形を保てなくなったようで融けて消えた。


「リオネルさま……」


 なんてありがたい。

 心強い。よかった。安堵が全身に広がる。


「今のは…?」


 私の横で、おじいさんがぽかんとしてる。

 ちぇ、もうちょっと感動の余韻に浸りたかったな。でも、しょうがない。

 私はキッと眉を吊り上げて振り返る。


「この脚の縄、外してください」

「あ、ああ」


 気圧されたようにおじいさんは私の脚の縄を切った。


「おじいさんは私に連絡する術はありますか?」

「忍び込んだ仲間がいるし、わしも夜なら城内は自由に動ける」

「じゃあ、何か動きがあったらすぐに知らせてくださいね」


 そう言うと私はトネリコの幹に飛びついた。程よいとっかかりに足を掛け、そのままするすると登る。


「おい、何してるんだ」

「部屋に戻ります」

「へ?」

「助けが来るまで内部から何か出来ないか考えます。おじいさんはどうぞ好きなように暗躍してください」


 私はそう言い捨てて、さらに登っていく。

 木登りなんて子供の頃以来だけど、意外に忘れないものだなぁ。

 むずかしいところの足場を慎重に探っていたら、おじいさんも登ってきた。けっこう早い。

 まぁ、山の民っていうくらいだから木登りはお手のものか。


「おい、聖女」


 呼びかけられたけど、無視。無視。

 普段なら人に対して無視なんてできないけど、今はホント強気。どこかで振り切れちゃったみたい。

 閉じ込められてた窓の側まで来たら、枝から窓までけっこう距離がある。

 飛べるかな。

 落ちたらシャレにならないなぁ。

 考え込んでたら、おじいさんが追い付いた。


「わしらに協力してくれるのか?」

「いいえ、私をさらうような人の言う通りになんかしません」


 これ以上話すことはない。私は気合いを入れて、えいっとジャンプ!

 なんとか窓枠に飛びつけた。でもやっぱり体がなかなか中に入れられない。

 じたばたしてたらトネリコの枝が震え、私を包み込むようにおしりを押し、室内に引き上げてくれた。


「ありがとう……」


 行きも帰りもご迷惑かけます。

 手を合わせて深く一礼。感謝だ。


「おい」

「ついてこないでください。大声出しますよ」

「それは止めろ。見つかれば計画に支障が出る」

「じゃあ、私の前からいなくなってください」


 私は外した格子をもちあげて、窓枠に立てかける。これが壊れてることなんて見れば一発で分かるけど、今日の感じだとこんなところまで誰もチェックしないだろう。

 金剛杖にお願いすれば直せるかもしれないが、どうせまた抜け出すだろうし、すっごく疲れたし、これでいいや。


 ベッドに戻り、どさりと横になる。


「つっかれた~」


 負荷を掛け過ぎて握力はないし、背中は筋肉痛っぽいのがもう来てるし、足はガクガクだし。


「寝よ」


 とりあえず寝て、体力戻して……起きたら筋トレしよう。懸垂が軽々できるくらいになりたい。

 そう言えば、先人が言ってたな。筋肉は裏切らないって。


 そんなことを思うか思わないかの数秒で、意識がすぅっと無くなった。







 



 翌朝、ずいぶん陽が昇ってから目が覚める。


「いたた…」


 全身筋肉痛だ。筋トレの前にストレッチしないと。

 ベッドでゆっくり伸びをして体をほぐしてたら、女性が入ってきた。

 ワゴンに食事を乗せている。


「あの…昨夜、庭で会いましたよね」


 話しかけてみるが、反応はない。目の下の隈がくっきり。


「毎晩、ああやって歩いてるんですか?」

「……」

「それで昼間もこうして働いてるなら、疲れますよね。でも、どうしてあんなところに?」


 返事がないけど、気にせず話しかけると、食事を運んでいた手が止まった。

 ぼんやりしてるけど、視線が合う。


「……もし私で出来ることがあれば、伝えてほしいなぁって思ってます」


 おじいさんのように強硬手段で来られると反発したくなるけど、この女性みたいな感じだと助けたくなる。


 じっと視線を合わせていたら、城内のどこからか人の声が聞こえてきた。

 すると女性の目がまたどろりと濁って、ふらりと部屋を出ていく。

 

「だめか…」


 あの様子とおじいさんの話だと、この城にいる人たち何かされてるっぽいんだよなぁ。ちょっとでも会話ができればヒントになるかと思ったけど。


 もそもそと食事をし、ぼんやり過ごす。

 領主の元に連れて行かれるんだろうと待っていたけど、なかなか呼ばれない。


「ま、呼ばれても筋肉痛であんま動けないんだけどね」


 いいのか、悪いのか。結局その日は何も起こらず夜になり、おじいさんが窓の外に顔を出した。


「おい、聖女。すごいぞ」

「なにがですか」

「国王の親書が日に何度も届いている。矢のような量だ」

「国王さまの親書?」

「内容までは知らんが、領主と執行部が慌てふためいている。王都との距離を考えるとすぐそばに王の代理人が来てるんだろうな」

「へぇ…」


 レイモンドさまとリオネルさまだ。

 この二人が来てること、おじいさんは知らないのかな。一瞬、教えたくなったけど、信用しきれてないからパス。


 それより、お二人が動いているって情報に力がわいてきた。


「外に出てみよっと」

「今からか?」

「城内の様子を知りたいの」


 領主は親書にかかり切りになっててこっちに注意を払ってないようだ。今が情報収集のチャンス。

 さすがに城の中枢には容易にうろつけないだろうから、まずは女性たちがどこに捕らわれているのか知りたい。


 そう言えば、おじいさん……マリオさんというらしい……がその建物へ案内してくれるという。また窓から抜け出し警備を避け、ちょっと大回りしてから湖畔に出る。

 マリオおじいさんは湖に浮かぶ小島を指差した。


「あれが娘たちのいる場所だ」

「え? 私は建物を見たいって言ったんですけど」

「あれがそうなんだ」


 城の外れに逆ナイアガラがある。

 何を言っているのかわからないだろうけど、そうとしか言えない。

 湖の水が瀑布のように天へ噴き出し、建物の周囲に水のカーテン、いや壁が出来ている。

 肝心の建物は水煙でよく見えない。


 おいおいおいおい。



 この事態、私にどうしろっていうのよ、精霊さんたち〜!







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