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初めてのお茶会。




 そんな訳で今日は初めてのお茶会です。


 お茶会は王宮の神殿に近い奥まった庭園が見えるサンルームで行われる。

 てっきりレイモンドさま主催かと思ったら、王妃さま主催だって。


「おうひさま……」

「そんなに固くならなくても大丈夫ですよ、王妃さまはおやさしいので」


 ミリアムさまはそう言うけれど、平民にはハードル高い。粗相しなければいいな。なるべく小さくなってよっと。


 参加者が集まり、現れた王妃さまの「楽しんでちょうだい」の言葉でお茶会が始まる。

 席は特に決められておらず、庭園をながめながらお茶を飲んだり、サンルームから出て周囲をそぞろ歩いたり。私はミリアムさまに付き従っているだけでいいらしい。


 でももちろん最初にすることがあって…それは主催者すなわち王妃さまへのごあいさつ。

 身分順なので一番目はブルクハルト侯爵家、伯爵家のミリアムさまは二番目だった。

 

「ミリアム。久しぶりね」

「ご無沙汰しております、王妃さま」

「庭園はもう歩いた? 常緑樹が神殿から続く白い道に映えて心が洗われるわよ」

「これからですが、拝見するのが楽しみです」


 王妃さまは花がお好きだって聞いてたけど、本当なんだな。ガラス越しの植物を見る目がやさしい。金髪にグリーンの瞳がきらきらしててきれい。

 ついじっと見つめていたら、目が合う。ふふ…と微笑まれた。


「ところで…その子が?」

「はい、アイリーンと申します」


 ミリアムさまに紹介され、付け焼き刃のカーテシー。頭ぶれちゃダメ、姿勢ぶれちゃダメ…。がんばれ私の筋肉たち…!


「アイリーン、日々に不足はないかしら」

「はい。皆様によくしていただいています」

「何かあったらレイに言うのよ。女性の言葉をおろそかにしないよう、しつけてあるから」

「……はい」


 意味有りげに微笑む王妃さま。レイモンドさまに似てるような似てないような。

 身分を笠に着ない、気さくな雰囲気は王族共通なのかなぁ。


「ところで二人のドレスはおそろい?」

「ロラにお願いしたら、こうなりました」

「さすが、ロラ。わかってるじゃない」


 王妃さまは私たちを見て、満足そうに頷く。

 温室でカミラさまに着付けてもらったロラさまのドレスは、あざやかなブルー。髪はハーフアップにし、白いリボンでまとめる。軽くお化粧もされて、パッと見お嬢さん風になったかな。

 ミリアムさまは私よりやや薄いブルーのドレス。

 デザインはシンプルだけどそれがミリアムさまの美しさをより一層際立たせている。


 楽しんでね、と言われ次の人に王妃さまの前を譲ると、ミリアムさまは様々な人と会話をしていく。

 私はその後ろに控えて、こっそり出席者の人となりを覚えていった。


 皆さん、庭園を愛する人たちで身分を越えて親しげにお話しされている。似たようなお茶会は王妃さま主催で継続的にあり、身分ばらばらの面子にも疑問はないようだ。

 今日の主旨は冬の庭を愛でようとのことで、会話の内容がこの時期の花に移る。


「水仙などは庭の清涼剤として見応えがありますわね」

「白いのと黄色いのがありますから、バランス良く配置するといいですわ」

「庭師からの受け売りだが…水仙は毒があるので取り扱いにはお気をつけ下さい。玉ねぎと球根が似ています」

「まぁ、こわい」

「正しい知識を持って取り扱えば良いのですよ」


 フレッカー男爵が水仙の毒性や、育て方、球根の見分け方など語り、皆さんも興味深げに聞いている。

 そっか、庭園を愛するってことは植物にも造詣が深いのか。だから私の後見人候補にも選ばれたんだな。


 植物に関する話題を楽しく聞いているうちにお茶会が終わった。

 身分の高いもの順に退室していき、私とミリアムさまは温室へ戻る。カミラさまに出迎えられて、一気に肩の力が抜けた。


「ふぅ〜」

「おかえりなさいませ。一休み致しましょうね」

「カミラ、まずはドレスを脱いでいいかな」

「相変わらずですね」


 ミリアムさまはさっさと奥の部屋に行き、カミラさまに手伝ってもらい、いつもの騎士服へ着替えた。


「あぁ、ホッとした。ドレスはやっぱり苦手だ」

「おきれいでしたのに」

「動きやすい方がしっくりくる。ロラのドレスじゃなかったら着たくもない」


 男勝りはきっと一生治らないよ、とミリアムさまは大きく伸びをした。

 私もカミラさまに手伝ってもらい着替えると、温室に戻りお茶をいただく。

 お茶会に出席したけど、付き人だからお茶を飲むことはなかったんだよね。あ〜、緊張してたから喉がカラカラ。


 改めてホッとしたところで、レイモンドさまがやってきた。


「アイリーン、どうだった?」

「楽しかったです。植物の話がいっぱい出て」


 出席者もおだやかな人ばかりだった。

 前世のマンガの影響か、社交界はいじわるなところってイメージが実はあった。

 でも実際は、身分が高ければ高いほどおだやかな人が多いんだ。


「あと、朝はトマトをありがとう。すぐに弟に持っていった」

「いかがでしたか?」


 早朝、収穫したトマトをお願いしてレイモンドさまに届けてもらった。結果が気になり、私はつい身を乗り出してしまう。


「寝起きを襲撃したんだが、アイリーンのトマトを見せると大喜びで口にしたぞ。あっという間に完食した」

「よかった~」


 お口に合ったみたいでホッとする。


「ここから次々収穫できますので、飽きるほど食べられますよ」


 私はさっきよりさらにホッとしてお茶を飲む。

 そしてにこにこ笑顔のレイモンドさまを見た。


「これで王宮に来た目的が無事果たせました」


 弟王子にトマトを食べてもらうこと。温室で野菜を作ること。


「あとは…他の作物も試して温室栽培に見通しを付けられたらいいんですよね」

「そうだ、頼む」

「はい、トマトに目処がついたので、次は違うものも栽培してみます」


 すぐに出来る野菜と言えば……ラディッシュはどうだろう。味が辛いっていう人もいるからにんじんも植えてみよう。


「木箱一つずつに作物を植えて、データを取ってほしい」

「第二温室への足がかりですね」

「うん、楽しみだな」


 はい、と頷いた心の奥にちょっとした寂寞がある。

 レイモンドさまの事業をある程度お手伝いをしたら私は王宮を去るべきなんだろうな。

 今の状態は言わば、レイモンドさまの個人的なお手伝いに雇われただけ。王族の皆さんが気さくだからって、平民がいつまでも馴れ馴れしくしててはいけない。

 だっていつか、レイモンドさまは妻にふさわしい身分の人を選ぶんだから。


 私はその時どうしてるのかな。

 祝福の子の後見人となってくれる人を選んで、市井で生活するか村に帰るか。

 どっちにしても今みたいに頻繁にレイモンドさまに会えなくなる。


 そう思ったら、胸がズキンと痛んだ。





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