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●●●彼女からの報告●●●



「王太子は息災のようだな。ふむ、次は…」

「現在は外相補佐に付き見聞を広められているようです」

「では、次」

「三の方は無事に次の現場へ移られました」


 やわらかな陽射しが差し込む一室で、その人は様々な報告を聞いていた。


「次は…六の根無し草か。どうしている?」

「相変わらずでございます」

「まだそこらへんをふらふらしてるのか」

「はい。けれど、もうそれも終わるでしょう」

「ん?」

「根を降ろしたい場所を見つけられたようです」

「ふぅん?」


 面白そうにその人が身を乗り出した。


「もしかして先頃どこぞより呼び寄せた少女か?」

「左様にございます」

「どのような人間だ?」

「ヘレフォード村、ウッド夫妻の子で、名前はアイリーンと申します」

「穴あきクッションを考え出した者だろう?」

「はい。利発な子です」


 彼女は静かに笑みを浮かべたまま続ける。


「ただ…少し不思議なところがございます」

「不思議?」

「私にはあの子が平民とは思えません」


 その人は目線で続きを促した。


「あの子は王宮での生活に、すんなり溶け込みました」


 怖じ気づくこともなく、戸惑いも少ないまま、農村との文化的差異を当然のように受け入れる。

 普通ならば、おろおろしたり物珍しく騒いだり田舎者特有の行動をするはずだが、そんなそぶりは未だに見せない。

 まるでどこかの国の貴族がお忍びで王宮に来た、と言ってもおかしくない態度に見えた。


「まだ幼くて、物を知らないせいではないか?」

「私も初めはそう思いました。けれど…仕草や言葉遣いを見ていると、どこかで同程度の生活をしていたような気がするのです」


 味覚も貴族のようだった、と彼女は言う。


「平民が見た事のないはずのお菓子をすぐ理解したし、味を知っている素振りでした」


 あの少女は、出したどのお菓子も久しぶりに食べた…というような顔をして喜んでいた。


 ミリアムが持っていた本を難無く読みこなし、数字にも強い。経済の流れを教わらずとも理解する。

 村娘ではありえない思考回路だ。


「両親がしっかり教育したのではないか?」

「マックスさまが両親の身元を調べましたところ、二人とも隣国の侯爵家で働いていたようです」

「侯爵家で働ける身分なら、貴族か?」

「父親は男爵家の三男、母親は商家の娘です」


 勤めていた屋敷で権力を持っていた執事長とトラブルがあり、二人とも職を辞したと報告書には書いてある。


「トラブルの原因はなんだ?」

「少女の母親は整った顔立ちですので、お察し頂ければ…」

「あぁ、そういうことか」


 その人は気の毒そうに頷いた。


「侯爵家の跡取りは二人のことを気に入っていたらしく、代替わりしたら戻ってきてほしいと言い、実際今でも交流があるそうです」


 だが二人は村が気に入りローガン国に帰化した。


「マックスさまが調査で村を訪れた際、娘はいつか隣国へ行き貴族に仕えることもあるかもしれないと思い、それなりの教育をしていたと父親が語っていたそうです」

「そういうバックボーンがあればこその理解力か…」


 その人の結論に彼女は頷き、しかしまた悩みつつ言葉を続ける。


「それにしても価値観が…やはり平民とは違います」

「例えば?」

「初めて受けるはずのマッサージに躊躇しなかったのです」


 貴族ならばごく身近なことだが、平民は他人に自分の体の手入れをされることはまずない。

 しかしあの少女はそういうものがあるのだとあらかじめ知っていた気がする。

 肌の肌理を整えられること、髪をセットされることに慣れており、自然に受け入れていた。


「手の荒れ方や手入れの行き届いていない髪、日焼けした肌の色をみれば村育ちだとわかるのですが…どうにもちぐはぐな印象で……」

「面白いな」


 その人は低い声で笑う。


「私もその少女に会ってみたい」


 青い瞳が子供のようにきらきらと細められた。





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