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華澄さん編終了です。
あの日。
警視庁の捜査1課、課長のデスクの前で真昼はテレビを見ていた。
「あー、これはいくら大臣でも隠蔽は無理そうねぇ」
心なし嬉しそうであったことは、課長しか知らない。
あの日。
華澄は父親と、姉の婚約者と共にテレビを見ていた。
「死んだ、の?」
「……わからない。けど、多分もう現れないだろうね」
「真澄は見ているかな」
「ええ……きっと」
皆が流すのが安堵の涙なのか、嬉し涙なのか、それは誰も知らなくていいことだ。
あの日。
警察もただテレビを見ていたわけではなかった。
映像から場所の特定。現場への人員の配置。サイレンを鳴らして急行するパトカーの列。テレビで確認しながら鉄塔を駆け上がると、おそらく現場だろう階についた辺りでブラックアウト。
さらに急ぐ人と、思わず下を確認する人。そうして彼らが見たのは、風に揺れるロープだけだった。
そこにもいない、落ちたとしたら必ず見つかる遺体もない。本当にいたのだろうかと疑うレベルで3人は消えた。
三人がどこに行ったのか、彼らが知ることはない。
あの日。
善は確かにそこにいた。三人へ問いかけていたのは彼だから間違いない。反省を促したのだが、逆ギレされたので仕方なく最後の手段に移行した。移動手段? 内緒。
無理矢理組み敷かれる気持ちをわかってもらうために、体験する場を設けようと言ったのは善。ただ、女性相手では恐怖など味わえないのではないかと、優しさから相手を吟味して厳選したのは凛だ。
体力的には自信ありますなムキムキゴリマッチョから、ムチもロウソクもドンとこいなどSなおネエさん、言葉責めから始まる精神も肉体もいたぶるのがお好きなおニイさんまで、よりどりみどりな方々が手招きする秘密のお部屋へいらっしゃぁい、とご招待。
さて、本当の躾を身をもって知ったであろう三人が、反省と後悔と懺悔を胸に抱き、とある場所でひっそりとどSな方々に可愛がられて生きているのは、知らなくても誰も困らない。
いつだったか繋がったはずの扉は2度と開かなかったけれど、華澄はあの時の絶望した気持ちとは違う、晴れやかな気分で警察署から出てきた。今回は姉の婚約者と一緒である。
今日は間山と名乗った女性刑事から、事件の報告を受けそして謝罪された。姉は警察で男性刑事によるセカンドレイプを受けていたらしい。
何度も合意だったのでは? と繰り返し聞かれ、否定しても納得されず、調書に記すため詳しく話すことを強要され女性刑事に代わることを拒否された。
その男性刑事は処分を受けたそうだが、だからといってしたことされたことが消えるわけではない。それに、なぜ所轄署ではなく、警視庁所属の間山が謝罪するのか。
「真澄さんの第一の事件で私達が介入していれば、第二の事件は防げたもの。上層部からの圧力があったとしても、私達の部署にそれは通用しないことも周知の事実」
間山の部署に報告せずに圧力に従った時点で、男性刑事は刑事であるための正義を捨てたのだ、と間山は言い切った。
「過ぎたことは取り返せない。真澄さんは戻らない。私達は、また罪を背負って生きていく。だから謝罪は自己満足でしかないわ」
もしかしたら、はあり得ないが、それでも間山が言う通りだったら、真澄はーー。
そんな真澄が生きている世界に思いを馳せながら、ふたりは警察署を出た。
空は晴れ晴れと青く、心は少しだけ軽い。だからだろうか。幻が見えた気がした。
姉がいた。
車道を挟んだ向こう側。車と車が通過するその合間。
穏やかに、優しく微笑んだ真澄の唇が動いた。
『ありがとう、さよなら』
「おね、っ!?」
「真澄っ!!」
一瞬だったが、ふたり一緒に幻覚を見たはずもない。真澄は確かにそこにいた。
ふたりは目を合わせて、静かに笑い合うとそこから歩き去って行った。
「ありがとう、名さん」
「ううん。彼女がまだいてくれたからできたの」
「真澄さんは」
「さっき逝ったよ」
「そうですか」
真実を知ることが正しいことかはわからない。それを知って赦すことができないのは異常とは言えない。思いは力であり、願いは希望である。
強い願いは扉を開く。ほら、今日もーー。
「さあ、あなたの願いはなんですか?」
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