4
突っ込み必須回ですね!
その日。
今の日本にはあり得ないはずのことが起きた。テレビが何者かによってジャックされたのである。ご丁寧に全番組を同時にジャックしてくれたそれに、街頭のハイビジョンも、なぜか録画を放送していた店のテレビも、全てが何者かの支配下に置かれた。
赤い鉄塔。空が近く見えることから、かなりの高さにあるようだ。そこから思いつくのは、役目を終えた電波塔である。
錆が目立つ鉄塔には、3人の男。足がつかない位置で固定されている。縛られているのか、自力での脱出は無理そうだ。
意識はあるのか、怯える者、怒鳴り散らす者、へらへらと笑い出す者様々である。着ている服は上質なものに見えるが、今はシワだらけで汚れている。
醜い怒声は聞こえてはこない。顔がはっきり見えるのに、その声はなにを言っているのかすらわからない。
人々はなにもわからず、テレビ局に苦情を入れたりもしたが、テレビ局側も対応のしようがなく、混乱中。じゃあ、とばかりにスマホやパソコンを、と思えばそれもジャックされる。
一体なんなんだ!? と苛立ちが募る中、ようやく音声が聞こえてきた。
画面にテロップが流れる。
ーー罪を認めるか?
「なんのツミだよっ!?」
「オレらなんもしてねぇよ!! オロせ!!」
ーー今まで自分達がしてきた行い、その全てが罪だ。
「えー、オレたちぃ、遊んでただけだよぉ?」
「だからっ!! オレらなんもしてねぇよ!!」
ーー違法ドラッグも、それを使って女性をレイプしたのも?
「っ、あれは同意だ!!」
ーー拉致監禁は立派な罪だが?
「だから! あれは同意だ!!」
ーー警察に出した被害届をもみ消したのに?
「っ、あの女! シツケが足りなかったか!」
「ばっ、同意だと言ってるだろ!!」
ーーどうやら、自分達の罪を認識できないらしい。
プツ、と音がしてぐらりと男達の身体が揺れる。ロープでも切れたのだろうか。ひとりでに? 画面に3人以外の人影はない。誰と話しているのかもわからない。
けれど、画面は3人に固定されている。誰も近づいてはいない。だというのに男達は揺れている。鉄塔の外側に傾ぐ身体に、恐怖でひきつった顔が映る。
「た、タスケて!」
「おい! なにしたんだよ!」
ーー助けてと叫ぶ彼女達を、君達は助けたのか? ありもしない父親の権力で押さえつけて、無理矢理組み敷いて、やめてと泣く彼女達に嗤いながら、君達はなにをした?
「あれはっ、どうーー」
ぷつり、とまた音がした。
「ひっーー」
ーー自分達は悪くないと? 身体も精神も汚されて貶められた、この世界に救いなどないと絶望の中今も生きている彼女達の気持ちは、君達には届かないのかな。
テロップの言葉は、言い聞かせているようで、独り言のようだ。どこか他人事のような雰囲気に、怒りと恐怖で思考が飛んだ男が叫んだ。
「あんなバカな女共! 俺に抱かれただけアリガタイと思えよ!」
「保志さん!!」
素というより本性だろう。隠しきれるほどの頭脳もないと思われるが。
「テイコウするだけムダなんだよ! 女は俺にシタガエばいいんだよ! なにサツにタレコンデんだよ! バカなことするからシツケされんだよ! 俺はタダシいんだ!!」
自分が正義とか、なに言っちゃってんのこいつ? いつの時代の男尊女卑か、ここは明治か昭和かと首を傾げたくなるが、男は至って真面目である。方向はかなり間違っているが。
ーーでは、自分で気づいてもらうしかないだろうね。
ぷつぷつぷつ、と連続してロープが切れる。
「ひぃっ!」
「ぎゃあぁぁぁ!!」
「やめろ! やめてくれ!!」
ーー自分達はその叫びを聞き入れなかったのに、なぜ聞き入れてもらえると思うのだろうね?
そのテロップを最後に、画面はブラックアウトし、通常の番組が流れ出した。
彼らのその後は誰も知らない。