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眠れない街  作者: 桜月
それでも願いはひとつだけ
4/10

3

クズです。

 保志(やすし)は苛立っていた。


 珍しく呼ばれて、父親のオフィスに来たものの、本人は来客中。保志の相手は秘書の男だった。


 女なら遊んで暇潰しもできたろうが、生憎保志はノーマルである。ソファーに深く座り込んだ保志に、秘書の視線は冷たい。


「お父様からの伝言です。控えるように、と」


 この一言のために自分はここに呼ばれたというのか。

 保志の苛立ちは、わかりやすく態度にでていた。


「もみ消したとは言え、マスコミはまだ諦めていません。お父様の次の選挙も近い、これ以上貴方に割く時間も金銭ももったいないので」

「俺は後継ぎだぞ?」

「政治の「せ」の字も知らないのに?」


 一応、父親のオフィスに保志の名前もある。給料も振り込まれているが、保志は仕事をしたことがない。父親の別の会社の役員としての報酬もあるので生活にも困らない。乗っている高級車も名義も支払いも母親のものだ。


 だが、この生活の基盤は父親あってのもの。それは保志にもわかっている。


「正直、先日の女の件では、やりすぎだとお父様も仰っておられました。素人に手を出すのは止めるように」


 秘書の言う、先日の女は愚かにも保志を訴えようとしていた。保志が遊んでやったというのに、感謝どころか憎んでいたという。だから、二度と反抗できないように身体に教え込んでやっただけのこと。注意を受ける謂れはないはずだ。


 保志は正真正銘のクズである。父親はまともだが子に無関心。保志は、溺愛してくる母親の叱らない(というよりなにをしても、怒られることですら誉め続けるある意味狂った)育児の被害者とも言える。甘んじたのは自分なので自業自得だろうか。


「過信は身を滅ぼしますよ」


 保志はクズで愚かである。ありがたい忠告をそう受け取れないほどに。


「……誰にモノを言ってるんだ? 消すぞ?」


 立ち上がった保志に、最後に向けた秘書の視線は蔑みを多分に含んだものだった。




 イライラしたまま、一人暮らしのマンションに帰りつ

 くと、父親から与えられたご学友のふたりが怒りも露に電話をしていた。


 父親の取り巻きの子であるふたりは、保志に忠実な(しもべ)だ。保志の下についていれば、好き放題だからだとも言うが。


「あ、保志さん! あのオンナ消えやがったんスよ!」

「ったく! かわりもつかまんねぇし!」


 ふたりは今日、秘書の言っていた女の妹を遊びに誘うと言っていたはず。消えたとはどういう意味かはわからないが、捕まえ損ねたのだろう。


「代わりはいらねぇ。早くあの女の妹をつれてこい」


 こんなに気分が悪いのは、あの女のせいだ。だから、その責任は妹がとるべきだろう。反抗しないなら可愛がってやってもいい、と単純な思考で保志は僕に命じた。


 バタバタと出ていくふたりを放って、保志はシャワーを浴びに行った。これからのお楽しみを思って。


 バカな男である。




 ふたりを待ちながら、酒を飲んでいた保志はいつの間にか寝ていたらしい。目覚めると、風を肌に感じた。窓を開けていただろうか、と思いながら起き上がろうとしたが、身体が動かないことに気づいた。


「な、んだ、これは!?」


 自業自得の断罪が幕を開ける。



やっぱりクズです。

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