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朝食を済ませると早速住職の部屋に行ってみようとわらしに一緒に着いて来るかと尋ねたが嫌がった。余程その部屋にはあやかしが嫌がる何かが有るのだろう。

麻衣から鍵を渡されると広いお寺の隅にある部屋に行ってみた。

しかし、夏だと言うのにその部屋には光が当たらずひんやりとしていた。

そして驚いたのにはそのドアには幾つものお札が張って有った。


「一人住まいだと言うのに部屋は全く隅の隅だな。もっと光が入る良い部屋があるだろうに変わった曽祖父じいさんだ。またドアには沢山のお札が張ってあるな、あやかしが入れない理由はこれだな」と、そのドアを開けると当然中は真っ暗だし、夏の朝で湿気と暑さでムンムンしていた。それもその筈雨戸が閉まったままだったからだ。


「うっ、このくそ暑い夏なのに雨戸を閉めているなんて、まるでサウナだな。それでも長生きが良いのか、俺なら簡便だな」と明かりのスイッチは何処だと探したが分らなかったので手探りで雨戸をやっとの事で開けると木陰から弱い光が差し込み、窓も開けると朝の新鮮な空気も入り込みどうにか居られるようになった。


部屋を見渡すと広い筈の住職の部屋はそれでも薄暗く隅には机があり、壁の棚にはびっしりと書籍が並び、棚の上段には色々入った箱がぎっしりと天井まで積んであった。

他にも床にはダンボール箱が山の様に積んであり、その部屋の真ん中に布団が引けるぐらいのスペースしかなかった。

「このスペースに寝ていたのか。こりゃ、漫画で読んだ苦学生の三畳一間の生活より狭いぞ、それにテレビもエアコンも無い。曽祖父じいさんはこんな部屋でどんな生活をしていたんだろう。それにしても蒸し暑い、扇風機はどこだろう・・」と探すと埃を被ったのが山と積まれた箱の間に一台あった。


「古いのが一台、それもタイマーが付いていない。元気なも曽祖父じいさんも暑さで死ぬ訳だ。常世の食べ物でも現世の暑さには勝てなかったか、せっかく長生きをしてもこんな生活を続けるのは俺は絶対に嫌だな、将来は田舎の住職なんかならずにやっぱり都会に出よう。もしかしたら都会の方がこの部屋より空気が良いかもしれない」と扇風機を回して少し佇んでいると

「どう、今夜はここで寝られそう?」と麻衣がバケツと雑巾を持ってきてくれた。そしてその部屋の書籍を見るなり顔色が変わった。

「さすがに三蔵様だわ、凄い蔵書ね、それに今までに見た事がない本が沢山有るわ、何て羨ましいの。ここを私の部屋にでもしようかしら」


「そうか、それなら今夜から代わってもいいぞ、俺には蔵書は無意味だ」

「冗談よ、誰がこんな部屋なんて。窮屈そうだし夜はエアコンが無いとサウナ状態よ、それにゴキブリが出そうだわ」

「やっぱり君も女の子だな。ゴキブリは駄目なのか?」

「当然よ、あいつ等は貴方と同じで汚くて何処でも現れるのであやかしより嫌いよ」

「おいおい俺はゴキブリ並みか、それで三蔵って何だ、曽祖父じいさんの名前はそんな名前だったかな?」

「はぁ? あんたは自分の曽祖父の名前も知らないの?」

「バカにするな・・勿論知らないぞ。それならお前は自分の曽祖父の名前を一人でも知っているのか?」と尋ねると麻衣は目を閉じて考えてみたが

「・・そうね、全員知らないわ、だって会った事もないし・・」

「そうだろう・・でぇ、三蔵って何だ?」


「三蔵とは簡単に言うと仏教に凄く精通した僧侶の呼名よ」

「確かに僧侶だが、そんなに曽祖父じいさんは仏教に精通していたのか、田舎のくそ坊主じゃなかったのか?」

「やっぱり全然知らなかったじゃない、そうね・・そんな貴方でも西遊記に出てくる徳の高い僧侶は知っているわよね?」

「知っているとも、孫悟空の和尚様だろう」

「そう、そう。だからその和尚様を人は三蔵法師と呼ぶのよ」

「じゃ、曽祖父じいさんは孫悟空の和尚様だったのか、それは幾らなんでも長生きしすぎじゃないのか、それに中国にも行ったのか?」

「バカね、同じ三蔵でも全く違う人よ。それに西遊記は作り話よ」


そんな話はとっくの昔から知っていたが休憩のつもりで麻衣をからかっていたので俺から笑いが毀れた。

「もしかして私をからかっていたの?」

「当たり前だ、幾ら俺でも三蔵法師ぐらいは知っているよ。でもこの部屋の箱は凄いな。まるで壁だな。それに箱自体も相当古いぞ」と目の前の箱に何が入っているのか気になり開けてみた。

「駄目よ、人の物を勝手に空けちゃ・・」

「おい見てみろ、変なものが色々入っているぞ、でもどれもこれもガラクタだな」

「どれどれ・・わっ凄い、ガラクタじゃないわよ祭祀の装飾品だわ。それに今まで見た事の無い様な物も沢山ある」

「そうなのか、良かった・・」

「何が良かったのよ」

「いや、男の一人暮らしだろう、もし大量のエロ本だったらどうしようかと思っただけだ」

「住職はあんたとは全然違うって、もう何回言ったら分るのよ」

「でも、曽祖父じいさんはスケベだったとあのあやかしのおじさんも言っていたぞ」

「確かに、スケベだった事は認めるわ」


「それに箱の中がエロ本じゃなくても、どんな人には他人に知られたくない秘密が有るかもしれないだぞ」

「偉そうに言っているわりには、何時まで私の腕を握っているのよ」

「ごめん、少しこの部屋が暗くて怖かったもので・・」

「でも、これだけの蔵書に装飾品はリストを作るだけでも大変だわ、今度皆で来て貰わないといけなくなったわ」

「皆って誰だ、あやかしの友達でも居るのか?」

「あやかしに友達なんて居ないわよ。高校の同じクラブの仲間よ」

「クラブ・・夜中踊っている連中なのか、それで帰りが遅かったのか、見かけによらず君が遊んでいたとは・・妹思いのお兄さんは心配だな」

「誰が妹で誰がお兄さんなのよ。貴方の妹は夜遊びの好きなわらしでしょ。

それにその冗談は何時の時代の話なの、私が所属しているのはあやかし研究会よ、高校のクラブよ、貴方も何か入っているでしょう」

「俺は帰宅部だが、君はそんなクラブに入っていたのか、それで、その変なクラブに入っていて何か得になるのか? 君には既にあやかしが見えるだろう、そんな研究会は余り意味が無いと思うけどな」


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