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「貴方が長生きする理由を知りたい?」
「知りたい、是非知りたい」
「それでは教えてあげましょう。私の今までの血の滲む様な調査と会社の研究によるとあやかしは常世の物を食べているので元気で長生きなのよ。それにあの不思議な術ももしかすると常世の食べ物と関係が有るのかもしれないけど・・残念ながら未だそこは謎なのよ」
「それは本当か・・でもお前の調査だから信憑性が相当低いな」
「おい、こら平助、私を信用しないか!」
「そうですよお兄さん、常世の一部でもそう言われていますのでお嬢さんの話は信憑性は高いですよ」
「へぇそうなんだ、常世でもそう言われているのか・・じゃ毎日常世の物を食べていれば長生きできるのか・・ん・・そうか、だから曽祖父は百歳を超えても山奥で元気に一人暮らしができたのか。その秘密を一族には黙っていたのか・・そう考えると何と汚い曽祖父なんだ」
「やっと気付いたのね、毎日常世の物を食べていれば病気もしなくなるし、寿命も延びる。まぁ、それがこの山奥のお寺の住職の役得みたいなものよ」
「健康で長生きが住職の役得か・・そう聞くと面白そうだな、なんだか少しこの寺に興味が湧いてきたぞ、でも若い俺には長生きより今は億万長者かな」
「またそれを言うのね。でも長生きすれば億万長者になるチャンスは確実に増えるわよ」
「そう言われるとそうだな。それにお金が幾ら有っても元気じゃないと意味が無い」
「やっと平助にこのお寺に興味が湧いてきた所で尋ねるけど、貴方は住職の本当の年齢を知っているの?」
「本当の年齢って・・芸能人じゃ有るまいし、そんなの関係ないだろう」
「バカね、今までの話からするとそこが一番重要なのよ」
「そうだった、曽祖父の正確な年齢は知らないけど、確か自分の息子よりは長生きしていたな」
「息子って、平助の母方の祖父かしら?」
「そうだけど、思えば確か祖父もかなり長生きだったけど・・そう言えば祖父も小さい頃はこのお寺に住んでいた筈だよな、それで常世の物を長年食べて長生きだったのかな・・」
「長生きした息子より更に長生きとは、流石に住職はずっとこのお寺で常世の物を食べていただけの事は有るわね、これで私の調査が正しかったと証明されたのよ」
「それで、曽祖父の本当の歳はいくつだ?」
「確か私が見た総本山の記録では百二十歳だったわ」
「おいおい冗談はよせ、その記録は絶対に間違っているぞ、その歳だと日本一だ。もしもそうなら知事が表彰書を持って来て一族で大騒ぎだ、だから絶対それは無いな。天下の総本山も時には間違いも有るんだな」
「総本山が住職の年齢を間違う訳が無いでしょ。総本山がちゃんと履歴等を管理して、平均寿命を越えたら途中で上手く戸籍を書換えているのよ」
「それは本当なのか、そんな事が今の時代にできるのか?」
「今は分らないけど、総本山なら戦争とか地震と流行り病とかで多くの人が一度に亡くなると昔は簡単にできたわよ」
「曽祖父の生きている時代には戦争とか地震とかが数々有ったな。
それに多くの人も亡くなったし、お寺は亡くなった人の情報には事欠かない。
そんな事もしていたとは、流石に千年の歴史が有る総本山だな、汚い裏も有るのか、単なる宗教法人にしては恐ろしい組織だ。じゃ百二十歳は本当だな」
「本当よ、でも百二十歳とは意外と早かったわね。その前の住職は記録だと享年百五十歳だったし」
「百五十歳だと! 信じられない、もう人間じゃないな、もしかするとそいつがあやかしじゃないのか?」
「そうかもしれないわね、そうだとすると貴方の先祖はあやかしになるわよ」と笑った。
麻衣から住職になると役得として元気で普通の人間の二倍ぐらいは長生きするらしいと話を聞くと、もしかたら頭の良くなる物や他にも何か役立つ物があるかもしれない、どうせ直ぐには逃げ出せないならこのお寺にもう少し居て色々調べてみても損はないと興味を深めた。
そして逃げ出す事を一時諦めた俺はこれからこのお寺で何をすべきかを麻衣に尋ねた。
「それで俺は今日から何をすればいいんだ、庭の草刈か屋根の修繕か?」
「やっと逃げ出す事は諦めたようね。庭の草刈や屋根の修繕も大事だけど、そうね、若い男女が同じ部屋に無い晩は寝られないでしょ、だからまずは貴方の今夜の寝場所を探す事ね」
「何だそんな事か、俺は昨夜と同じで麻衣の隣でも良いけど、なんなら今夜から同じ布団でもで良いぞ、そうするともっと仲良くなれるかもしれない」
「もうお二人さんはそんな関係でしたか、現世の若者はする事が早いな」
「違いますよ、昨日は仕方なくです。だから、私が貴方と同じ部屋は嫌と言っているでしょ」と強く否定したが
「同じ部屋、する事が早い、する事が早い」と、わらしがニコニコしながら口草無ので
「おじさん、わらしが真似をするでしょ。だからもう変な事は言わないで下さいね」
「はい、どうもすいません」
「平助、元々は貴方のせいよ。皆に誤解をされるから早く寝場所を見つけなさい」
「寝場所ねぇ・・このお寺ならどこでも良いんだろう?」
「まぁ、どこの部屋を選んでも同じだけどね」
「同じって、それはどう言う意味だ?」
「わらしには壁が無いのと同じよ。どの部屋でも素通りして入ってくるわ」
「何だ、結局どの部屋でもわらしと一緒と言う訳か」
「一緒の部屋、平助と一緒の部屋、夜中遊ぼう、手毬、かくれんぼ、夜中遊ぼう」と、わらしが一緒の部屋をグイグイと薦めて来た。
「わらしと一緒か・・一晩中遊ぼうとせがまれると困るな」
「一緒が嫌なら・・そう、亡くなった住職の部屋が有るわ。あそこはわらしも行かないので夜は静かよ」
「わらしも行かないって、その部屋には因縁でも有るのか?」
「あの部屋にはあやかしは入れないのよ。まぁ、行ってみると分るわ」
「そうなのか、夜は静かと言う事は魅力だな」
「あの部屋嫌い。平助と一緒の部屋、夜中遊ぼう」
「こうも一晩中遊ぼうとせがまれると煩いな。それなら決まったな」と直ぐに住職の部屋を見る事にした。
「じゃお兄さんは、今日から住職の部屋ですか?」
「そのつもりですが、先ずは部屋を見て掃除ですかね」
「掃除ですか・・じゃ、もしあの部屋で寝る事になったら気を付けてお休み下さい」
「気を付けてって、どういう意味ですか?」
「その内分りますよ。でも安心して下さい、あの部屋にはあやかしは入れませんので・・」と、おじさんは意味有りげな事を言うとお菓子をまた食べ始めたが
「じゃ、暑くなる前に庭の草刈でもして下さい、お菓子を食べているお暇なおじさん」と麻衣はおじさんに倉庫に行って鎌を取って来るようにと命じていた。