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2人の会話を無視してわらしは黙々と朝ごはんを食べていた。俺も麻衣からわらしは利が有っても害が無いと言うので無視していたが視界に入るので気になってしょうがなかった。

「君はわらしが居ると富を齎すって言ったよな、お寺もそうかな?」

「お寺もそうよ、栄えるわよ」

「お寺が栄えるとはおかしな話だ。このお寺を良く見てみろ、富どころか壁は落ち屋根からは雨漏りがする。まったく栄えていないぞ。近くに人家も無くお布施も無い、逆に廃れる一方じゃないのか?」

「雨漏り等は、貴方の一族が修理もしないで放って置いたからでしょう」

「まぁ、そう言われるとそうだが・・」


「それにその考えは物欲に囚われている平助だからよ」

「性欲には目覚めたが物欲は無いぞ」

「性欲は目覚めなくて良いのよ。ほら、ちゃんと豪華なおかずが並んだ朝ごはんが食べられるでしょ、もうこのお寺は数百年以上もこうやって営々と栄えているのよ」

「うんうん、そうだ、そうだ」と、わらしが頷いている。

「これで栄えているだと、それはどういう意味だ? 我家は金持ちじゃないけど朝のおかずはもう一品付いているぞ」

「品数じゃないわ。どんないくさに合ってもどんな飢饉が来てもこのお寺は潰れなかったのよ」

「うんうん、そうだ、そうだ」と、わらしが口をいっぱいにして頷いている。


「何だ、栄えるとは億万長者になるとは違うのか?」

「全然違うあよ」

「そうだろうな、わらしの服装を見ても億万長者とは思えないしな」

「億万長者とか本当に平助は物欲主義者ね。こんな山奥で億万長者になってどうするのよ、もっと自然にありがたみを感じなさい。それにこんな山奥にお布施をくれる檀家がいると思っているの?」

「うんうん、そうだ、そうだ」と、わらしが2杯目を勝手によそって食べ始めて頷いている。

「檀家はいないのか・・じゃお布施は、この朝ごはんはどうしたんだ? もしかして盗んだ、それとも君の手出し?」

「全部ハズレ! これは全部あやかし達のお布施よ、彼等からのお供え物や感謝の贈り物なのよ」


「じゃ、俺達はあやかしに食わせて貰っているのか?」

「まぁ早い話がそうだけど、ちゃんとあやかしにも見返りが有るのよ」

「見返りって、それはどういう意味だ?」

「このお寺はこちらの世界で亡くなったあやかしを供養しているのよ」

「じゃ、このお寺は人間じゃなくてあやかしを供養しているのか、だから檀家がいなくてもやっていけたのか?」

「そう言う事ね、悲しい事に向こうの世界に戻れなくて現世で亡くなるあやかしが多いのよ、それで安らかに眠れるようにとこのお寺で供養してあげているの」

「供養ね、単に念仏でも唱えているのだろう、それであやかしからお布施を貰うなんて美味い話だな」


「全然違うわ、そんな事だけなら私が喜んで住職になるわ」

「じゃ、他に何があるんだ、ここはお寺だぞ、念仏を唱えなくて何をするんだ」

「お寺だから有るのよ。法力が未だ無い貴方には見えないでしょうけどお寺の裏の森には広大なあやかしのお墓があるの。そこに夜な夜な亡くなったあやかしから術や宝飾品を盗みに来る輩も居るのよ、むしろそっちの相手の方が大変なのよ」

「それは本当か、亡者から盗むなんて何て奴等だ、人間の屑だな」

「元々人間じゃないわよ」

「そうでした・・」


「だからこのお寺の住職は代々そいつ等からお墓を守ってあげているのよ」

「そうなのか、でも墓場泥棒は警察の仕事だろう? 一民間人の住職に何ができるんだ」

「普通はね、でもこのお寺に来る墓場泥棒は人間とは限らないから警察は手出しができないの、それも住職の仕事なのよ」

「相手は人間じゃないのか?」

「そうね、人間の他にも妖怪や魑魅魍魎ちみもうりょう・・色々いるわよ」


「それにしてもじいさんはそんな仕事をしていたのか、それで人里離れたこんな山奥に居たのか」

「仕事は他にもあやかしの相談に乗ってあげたり、病気を治してあげたりしていたわよ」

「あやかしの相談、病気って、じゃ、わらしの他にも近くにあやかしが居るんだな」

「居るわよ、この辺りには沢山居るけど、でも気にしなくていいわよ、法力が無い貴方には見えないだろうし、たぶん向こうも用事がないと貴方に話しかけてこないから」

「何だ、用事がないと俺に話しかけてこないから、一応安心だな」

麻衣からここまでの話を聞いてやっとこのお寺があやかし寺と呼ばれて人々が近づかない事が理解できた。


「それで何故君がそんな事を詳しく知っているんだ、やっぱり君もあやかしだったのか? 胸が小さいからあやかしとばかり思っていた」

「誰の胸が小さいですって・・今夜も関節技を決めましょうか?」

「すいません。俺の見間違いです」

「私が詳しいのは、だってこの話はうちの高校じゃ有名なのよ、ちゃんと授業にも出るし」

「高校、授業って・・何だそれ?」と詳しく尋ねると、彼女は総本山系の付属高校に通っていた。

「付属高校って・・君がか?」

「だから、休みになるとこのお寺に来て色々調査しているのよ」

「そっか、それでじいさんも君をこのお寺に泊めていたのか」

「それで平助はやっと決心が付いたみたいね?」


「決心が付いたって、どう言う意味だ?」

「だから、決心が付いたからここに来たんでしょ?」

「はぁ? 俺は母親に小遣いの代わりに掃除と修繕を頼まれて来ただけだが・・」

「えっ、このお寺を継ぐために来たんじゃないの?」

「何処の誰がこんな田舎でお寺を継ぐものか、こんな田舎に住むくらいなら死んだ方がましだ」

「酷い事を言うのね、それにやはり小遣いに釣られたのね」

「当然だ。それに何の為に勉強をしていると思っている? 勿論俺は都会の大学に行って素敵な女子大生と遊び回って、将来はIT関係の仕事に就く為だぞ、誰が坊主になんてなるものか」

「えぇ・・そうなの、わらし、大変よ! 平助がお寺を継がないって、住職が居ないと供養ができずにこのお寺が廃れるわよ」

「廃れる、大変。あやかしの祟りがある、平助の一族、全員祟られる。平助、一番先に死ぬ、可哀想」

「おいおい、わらし、俺が死ぬなんて変な事を言うなよ、俺はこの通り若くて元気だぞ」

「残念だけど、わらしの言う通りよ、誰かがこのお寺を継いで供養をしないとあやかしの祟りで貴方が一番に死ぬのよ」


「どうして一番に死ぬのは俺なんだ? 継がないのは俺だけじゃない」

「だって貴方は住職の直系の曾孫でしょ、それに一度でもこの寺に来たなら祟る相手にも貴方の顔と名前を覚えられたし他の知らない人を新たに祟るより貴方を祟った方が簡単だからに決まっているじゃない」

「おいおい、それは本当か? 祟られるのが俺が一番先とは・・小遣いに目が眩んだの拙かったのか・・でも、そう言って俺にお寺を継がせる気でしょ? 嘘はいけませんよ」

「本当よ、神様に近いわらしは絶対に嘘は言わないわ」

「えっ、本当だって。これじゃ大学どころじゃない、その前に死んでしまうなんて、こんなお寺に来るんじゃなかった。でも良く考えると昨日の今日だ、あやかしに未だ顔を覚えられてはいない筈だ」と俺は朝ごはんを急いで食べると、荷物をまとめてお寺を飛び出したが、駅まではどうして行って良いのか分らなかったので結局は門の前に座り込んでしまった。


すると運良く昨日の農家のおじさんの軽トラが通りかかった。

「ちょうど良かった。おじさん、悪いけど直ぐに駅まで乗せて行ってくれませんか?」

「昨日あやかしでも出たのか?」

「出ました、出ました。本当なんです、直ぐに駅まで・・」

「駅までですか、でもそれは無理な相談ですね」

「今からお仕事ですか、無理は承知でお願いします。本当に俺の命にかかっているんです」

「お兄さんの命にですか・・」

「直ぐにお願いしたいんですが、お礼は後でいかほどでもしますので・・」

「でも無理ですね。これから仕事は有りませんけど、今から昨日お兄さんに買って貰ったお菓子でも食べようと思って来ましたから」

「お菓子?」

「そう、お菓子」と俺の肩にぽんとおじさんが手を乗せると俺はくらっとした。そして目を開けるとさっきまで麻衣とわらしと一緒に食べていた食卓に俺は戻っていた。

「お帰り、意外と早かったのね」

そう、このおじさんもあやかしで特殊な術を使ったのだった。


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