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深夜零時ぐらいだろうか、俺は旅の疲れなのかそれとも外から入る自然の風が涼しかったのか、何時もより静寂に包まれてぐっすりと寝ていた。
しかし、ガサガサと中庭を何かが雑草を踏み分けてくる足音が近づきはっと目が覚めた。
俺は噂のあやかしが出たのかと薄目を開けて静に寝たふりをしていた。
するとあやかしは開いている縁側から躊躇せずに居間にズンズンと上がり俺が寝ている布団に近づくと
「あらあら、ゴロン、ドスン」と突然物凄い音がして俺の足に痛みが走った。
そう俺の寝ている布団の上にあやかしが何かに足を取られて倒れて来たのだった。
「イテッ・・」と俺は思わず声を上げて直ぐに痛い足を擦った。
「ウッ、痛い・・」とあやかしも俺に負けじと声を上げていた。
「もしかして熊か? それともどんなあやかしかな?」と明かりを付け様と立ち上がったが、俺も足が痛くてよろめいてしまって、暗闇の中あやかしに抱き付いてしまった。
「ん・・モミモミ、これは意外に柔らかいぞ」
「こらっ、何処を触っているのよ、この変態スケベ」と逆に抵抗に合い顔を思い切り叩かれてしまった。
「あっ、イテッ」と何故俺が泥棒から変態とかスケベとか罵られて叩かれなければならないのかと明かりを付けてよく顔を確かめると女の子だった。
「ウッ、痛い、痛い・・」とその娘が俺よりも痛がって蹲っていた。
あやかしじゃない、人だ。この寺には誰も住んでいないと思って泥棒が入ってきたのかと
「おい泥棒、お前は誰だ! それに顔を叩くとはどう言う事だ」と叩かれた顔を摩りながら尋ねると
「あんたが私に急に抱き付くからでしょう、この変態スケベ住職!」と更に手を振りかざして叫んだが俺の顔を見るなり
「あれっ? 何時ものスケベな住職とは違うわ。それに今日のお坊様は若いのね」と俺の顔をじっと見て驚いていたが
「ウッ、痛い、痛い・・」と転んでどこか打ったのか痛そうに顔を歪めると振りかざした手で腰を擦りだした。
「おい、大丈夫か? 腰でも打ったのか、俺に見せてみろ」と泥棒だとしても余りにも彼女が痛そうにしているので擦っている腰に手をやると少し腫れていた。
「おい泥棒、本当に大丈夫なのか、少し腫れているぞ」
「大丈夫じゃないし泥棒でもないわよ、それにもう私に触らないで、痛い・・」
「女性の尻に触ったのは謝るが、でも深夜に人の家に無断で入ってくるのは泥棒じゃないのか?」
「人の家に無断ですって?」
「違うのか、それともこれがあの夜這と言うやつか、田舎ではまだやっていたのか、こんな可愛い娘が着てくれるとは俺は運が良いな、でも悪いが今日俺は風呂に入っていないぞ、それでも良いのか?」
「はぁ? 何勘違いしているのよ、何時も私が寝ている布団に勝手に寝ていたのはあんたの方なのよ、もしかしたらあんたが泥棒・・もしかしたら強姦魔?」
「俺が泥棒って・・それに私の布団って・・」と話が噛み合わないので良く理由を聞くと、以前から彼女は住職の許可を貰って度々このお寺に来て寝ていたそうだ。
そして今年も夏休みに入りここ数日前からまた来ていたのだが、全然住職に会わないのでおかしいなとは思っていたそうだ。
しかし、住職はしばしば居なくなるので余り気にせずに何時もの様に深夜に寝に戻ってきたのだった。詳しく話を聞いてみれば居間を綺麗に掃除し布団を用意していたのは彼女だったのだった。
ここで初めて納得できたが、このまま朝まで若い女性と布団を挟んでこうしている訳にもいかないので
「仕方ないな、まだ痛いなら薬で塗るか?」と尋ねると
「もう、早くそれを言ってよ。ずっとズキズキしていたのよ。じゃお願いします」と答えたので、急いで薬を探すと運良く救急箱の中にシップ薬が有った。
「やっぱり年寄りだな、シップが有ったぞ。でぇ、自分で張れるか」と手渡すと
「身体を曲げると痛いのよ、それに後ろだし自分で張れる訳無いでしょ、早く張ってちょうだいよ」と言うので、俺は少し恥ずかしかったが、仕方なく少しだけ腰の辺りを脱がせてシップ薬を張ってあげると気持ち良くしていた。
それ以上に俺の顔が気持ちよさ様な表情だったので「やっぱりスケベ」と罵られた。
女の子の手でさえホークダンス以外では触ったことが無いのに、行き成りあんな所を触れるとは役得だと嬉しかったのか、それが顔にもろに出てしまったらしい。
確かに俺はスケベだが、人間として山奥でこんな時間に若い女性に家から出て行けとは言えないので
「今日もここに泊まっていくのか?」と尋ねると
「当たり前じゃない、だから戻ってきたのよ」と当然の様に答えた。
「こんな時間じゃ仕方が無いか・・じゃ、残念ながらお前は畳の上だな、だって俺は所有者見たいな者だからな、アッハハ。じゃ、お休み」と明かりを消し布団に戻り眠ろうとすると彼女は暗闇の中
「あんたはそれでも人間か、シクシク。いたいけな少女が困っていると言うのに」と泣き落としに入った様だが、俺がそんな手には全然相手にしないと分ると今までの痛みが嘘の様に俺の寝ている布団に飛びかった。
それから布団の争奪戦が繰り広げられたが、残念ながら俺は女性の身体には余り触れた事が無かったし、触ると「イヤーン」と色っぽかったので何時もの力が出ずに布団の争奪に負けてしまい、最後には力で畳の上に投げ出されてしまった。
彼女は布団を奪うとマウントを取ったゴリラの様に守りを確りと固め直ぐに寝てしまったが、俺は慣れない畳の上では寝付けずにいた。
「彼女はいったい誰だろう、もしかするとこの娘があやかしなのか、でもこの娘なら山奥の広いお寺で毎晩一人でいるよりずっと楽しいだろう」と彼女の名前も聞かないまま明日朝が楽しみだとワクワクしながら畳みの上で丸くなって寝てしまった。