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夏休みを利用して7月末まで頑張ってお寺の掃除と簡単な修繕をしてくるとの約束で母からお小遣いを大目に貰って早速朝一番の東北新幹線に乗った筈なのに実家とはいえ旅行好きの母もめったに戻らない山奥だけの事だ、途中の駅に着いたら昼になっていた。それから母が話していたお寺近くの集落までバスに乗り継ぐ筈だったが乗継が無くなっていた。


「信じた俺がバカだった。そうだよな、母さんは滅多に来ないんだった。葬式の前に来たのは10年以上も前だよな。それから過疎になってバス路線は廃止になった訳か、仕方が無い日は未だ浅い事だし、まずは駅前でお昼でも食べてそれから寺まで歩くか」とカバンから弁当を地図を出しどうやってお寺まで歩いて行こうかと大きな地図を見ても平地の箇所は駅前しかなく後は山の中だった。


「バスは何処を通っていたんだ、地図には山道しか無いぞ。これじゃ歩いても行けそうに無いな・・このまま戻るか、しかし、貰った小遣いはゲームを買う予定だし、あぁ誰か通らないかな・・」と何も無い駅前で大きな荷物を手に途方にくれていたが暫くすると

「どうかされたのか? バスなら幾ら待っても来ないよ」と偶々通りすがりの軽トラに乗った農家のおじさんに声をかけられた。

地獄に仏とばかりに詳しく事情を説明して軽トラに乗せてくれる様に頼むと快く乗せてくれた。


「本当にありがとうございます、助かりました」

「こんな田舎の駅前に旅行者がいるなんて珍しいので、声をかけただけだ。偶然通りかかって本当に良かった」

「お寺までどうして行こうかと困っていたんですよ、最悪もうこのまま戻ろうかと思っていました」

「お兄さんはこの辺の人じゃないんだろう、去年の台風や豪雪で道崩れが酷くて路線バスは走っていないよ。それに町営のマイクロバスも夏休みで今日は走っていないし・・。

それで、お兄さんはあんなお寺に何の用事だい、確か去年住職が亡くなくなって今は誰も住んでいない筈だが・・」


「用事って、あのお寺は母の実家なんですよ。それで今どうなっているのか現状を確認しに来ました」

「あれっ、住職に娘なんていたかな。ひょっとしてお兄さんは去年亡くなった住職さんの末の息子かい、それにしちゃ若いね、住職は類を見ないスケベだとは聞いていたが、こんな高校生みたいな隠し子がいたとはな。生前は元気だったけど、凄いね。もしかして90歳ぐらいの時の子供かな・・山本五十六も驚きだ」

「住職の息子なんてとんでもない。母が孫で俺は曾孫になります」

「曾孫さんだったのか、そうだろうね、百歳を軽く超えた住職の息子が高校生の筈が無いか、アッハハ。そう君は曾孫さんだったのか、それならここにはあまり来ていないだろう?」

「はい、確か小さい時に2度ぐらいかな、お葬式も学校があったので来られなくて、本当に十数年ぶりですよ」と俺はガタガタ道で揺れながら山道に入り全く変わらない田舎の風景を見ていた。


「それなら、お兄さんは全然知らない筈だな?」と、おじさんは運転をしながら意味ありげに話した。

「知らないって、何をですか? あのお寺に何か有るのですか?」

「俺もはっきり見た訳じゃないけど、あのお寺には出るんだって・・」

「出るとは? 何が出るんですか、まさか熊とかが出るんですか?」

「アッハハ、熊ならここら辺なら至る所で出るけどな」

「えっ、冗談で言ったんですが、熊が出るんですか、それは怖いな」

「熊が怖いのかぁ、それは小心者だな。でもあのお寺に出るのはそれよりももっと恐ろしいものだよ」

「もっと恐ろしい・・ん・・、熊よりもですか、何だろう?」と俺は考えてみたが思いもつかなかった。するとおじさんの答えは意外なものだった。


「化け物が出るんだって。お兄さんを脅かすつもりは無いけど、近所の噂じゃ夜になると化け物が出るんだって」

「化け物って、お化けとか幽霊とかの類ですかね、でもお寺ならお化けは付き物だし、何処のお寺にもそんな噂は幾らでも有るので普通ですよ」

「あらっ、お兄さんは意外と怖がらないんだ、流石住職の孫だな」

「今日からお寺には俺が一人きりなので夜は少しは心配ですが、そんな非科学的な物は全然信じていませんので、特にこれと言って怖がる必要は・・」

「それなら良かった。今日からあのお寺に一人で寝泊りするんだろう。もしかしてお兄さんが根っからの小心者でお寺はもういいから直ぐに駅に戻って下さいと頼まれたらどうしようかと思っていたよ」

「そんな、子供じゃあるまいし、夜でも一人で多分大丈夫ですよ」

「本当に大丈夫かな、周りの皆はあのお寺をあやかし寺って呼んでいて夜は怖がって余り近づかないけどね」

「あやかし寺ですか、じゃもしかしたら幽霊じゃなくて妖怪でも出るのかな。運良く戻る前に会えるかな・・」と俺は怖さよりは逆にそのあやかしと言うものに会ってみたくなっていた。


「あやかしに運良く会えると良いね。俺は勘弁だけど・・。じゃお寺の近所にはお店が無いので途中で食べ物でも買っていた方が良いので何処か寄ろうか」と親切にもお店にも寄ってくれたが、何故か自分好みの食べ物ばかりを俺に買わせると、そのまま怖い話もせずにウキウキと軽トラは細い山道をどんどん進み途中から人家も無くなり深い森の入り口辺りで止まった。

「やっと着いた。ここがお寺ですよ。お気を付けて、じゃ、また明日」と俺を下ろして軽トラはまた来た道を戻っていた。

「また明日って・・俺があやかしを怖がって明日にでも帰るとでも思っているのかな?

それにしても軽トラなのに早いな、もう車が見えないぞ。それともおじさんは近くにでも住んでいるのかな」と今来た道を眺めたが軽トラは見えなかった。


「やっと着いたか。それにしても周りには人家はなさそうだな。集落の端っこにでも立っているのか。それにもうこんな時間になるとは・・朝一番とは信じ難い。さてと今日は遅い夕食で風呂なしで早寝だな」と大きな木の門を開けるとヒンジがギッーギッーと嫌な音を出した。

「わっ、本当に出そうな音だな、未だ明るいから良かったけど・・さぁ入ろう」と中に入ると数ヶ月間放置されていた庭には雑草が生えている上に台風で飛散してきたゴミも散らかっていた。


「あぁ、思った以上に酷いな。明日は朝から草刈か、それにしても酷過ぎるな。

これじゃ総本山から苦情が来る訳だな」と庭を抜け預かってきた鍵で玄関のドアを開けて中に入ると室内は意外と綺麗に片付けてあった。

「母さんが気を利かせて檀家さんに連絡をしてくれたのかな、それで掃除に来てくれたんだな。これなら今夜はこのまま寝られるぞ、それにちゃんとお布団まで用意してある、これは助かった。畳でのごろ寝は背中が痛くて嫌だったんだ」と居間の空気を入れ替えようと閉めてあった雨戸を開けると、そこには縁台があり小さな池のある中庭だった。


「あぁ、ここも草刈が必要だな。でも風流があって俺には合うかもしれないな、

東北とは言え今夜も暑いので窓でも開けて寝るかな、きっと涼しい風が入って良く眠れるぞ」と引いてあった布団を居間の真ん中に移したが

「でも夕食を食べて直ぐに寝るには早いな、そろそろ外も暗くなったし運良く月も出ていない。それに周りには邪魔になる家の明かりはない。そうだ・・」と荷物から小型の天体望遠鏡をゴソゴソと出すと少しお腹が減ったのでお店で買ったおにぎりを口にくわえて部屋の明かりを消した。


「これができるから来たようなものか、それにしてもここは星が良く観える。俺の部屋とは大違いだ、一週間ぐらい天気が続くと良いな。そうすれば草刈と天体観測ができる」と本当は明け方まで星が観たかったが、明日は朝早くから草刈が待っているとその日は2時間ほど天体望遠鏡を覗くと眠りに着いた。


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