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俺の名前は源平助みなもとへいすけ、苗字は誰も知る歴史ある由緒正しき一族の末裔かもしれないが今はごくごく普通の家庭で会社員の父とパート務めの母、それと高校生2年の俺の三人家族で関東のとある田舎街で2DKの狭い社宅に住んでいる。


毎日の俺と言えは学校のクラブにも入らず、放課後は何時も家に戻ってくると部屋でゴロゴロとゲームをして過ごしている。その上勉強もしないのだから成績は中の下の方だ。

それに輪をかけてスポーツもできないので女生徒からはもてたためしがない。

ただ取り柄は体力と手先の器用さ、後は自分で言うのもなんだが忍耐力は持っている。

これからの話は、そんな俺が夏休みも始まりそろそろ受験する大学を決めて真面目に勉強をするかと考えだした頃の出来事だ。


俺には東北地方の山奥に小さいお寺をしている母方の実家がある。否、もしかすると有ったと言った方が正しいかもしれない。

何故ならそのお寺には去年の春頃までは年老いた曽祖父がどうにか一人で住職をしていたが、その後体調を崩し猛暑の夏には勝てずに心不全で亡くなってしまったからだ。

その時は全国から寺の有る田舎の山奥に母方の一族が集まったが葬式が済んだ後は誰もそんな所には訪れる者は無く、お寺はそのまま放置され荒れ放題のままになってしまったのだった。


そんな折晩秋には季節外れの台風が来て屋根を壊し、冬にも豪雪もあって外壁も壊れてしまい、お寺はさらに荒れてしまったらしいが誰も手を付けなかった。

それを見かねた寺の総本山から今年の春に入って荒れたお寺の修繕や後継者の問題等をどうにかしろと何故かお寺からは遠い我家に強く苦情が入るようになった。

そんな事は知るか修理はお金のある総本山がしてくれるだろうと両親も放って置いたが、遂に我慢しきれなくなった総本山からこのままでは檀家が殆どいないお寺は廃止または一門からの除名もあり得ると半分脅されたので、廃止されればご先祖様に申し訳が立たないと苦肉の策として夏休みに暇な俺をその寺に行かせようとか考えたようだ。


夏休みに入ったある日の夕方、そんな両親の思惑を知らずに夕食も済み居間で何時ものようにテレビを観ながらゴロゴロしていた俺に台所で後片付けをしていた母が早くお寺に行くようにと説得を始めた。

「そろそろ計画は立てたの?」

「何の計画だよ、夏休みはバイトはせずに勉強をするつもりだけど・・」

「その計画じゃないわよ、お寺に行く計画の方よ」

「母さん、またその話・・あんな遠くまで俺が行かなくちゃいけないのか?」

「行かなくちゃいけないのよ、母さんもお金がかかるのでやりたくないけど、総本山が煩いのよ」

「もう、早く総本山に断れよ! それでお寺に行かないで済むなら夏休みだしその旅費で沖縄に行ってもいいかな?」

「何バカな事を言っているのよ、お寺に行くのよ」

「えぇ、あんな田舎に行きたくないよ。だって下手をするとスマホの電波も届かない所なんて嫌だし、夜あんな広いお寺に俺一人は流石に怖いし寂しいだろう」

「あんたそれでも男の子なの、本当に情けない、そう言う所はお父さんそっくりだわ」

「あぁ・・行きたくない、他にもうちよりもっと近くに親戚が居るだろう」

「居ないわよ。それに仕方ないでしょ、母さんはお祖父さんの直系でそれに長女だし、他に生きている親戚は傍系だし、それに皆年寄りで多くは九州の山奥だし、これでも我家が一番お寺に近い法なのよ」と母は力説し始めた。


「そう言えば東北の何処かに遠い親戚が居たんじゃないの?」

「確かに居たけどあそこも年寄りだったので・・それに、ずいぶん連絡をしていなかったので、とっくに音信普通よ」

「音信普通って・・でもどうしてこの俺だよ?」

「だって父さんも母さんも仕事があるから無理でしょう、それに年寄りが九州の山奥から遠くの東北の山奥に行くのも無理よ。もしそれが原因で亡くなってみなさい、今度は九州にも行かなくてはならなくなるわよ」

「まぁ、そう言われると九州から東北までは年寄りには無理かな・・」

「そうでしょ、だから夏休みが始まって暇な貴方しかいないのよ」


「あぁ・・皆年寄りで山奥に住んでいるとは、母さんの親戚は凄い一族だな」

「歴史で習ったでしょ、母さんの先祖は平家の落ち武者で遠くは九州の山奥にまで逃げたんだから」

「わぁ、また源平合戦だ、何百年前の話だよ」

「壇ノ浦が1185年だから・・今からたった835年前の事よ」

「江戸幕府を開いた徳川家康より前だ」

「徳川家康ですって・・徳川は源氏方だから敵方よ。それに源氏から逃げたから今の貴方がここにいるのよ、平助の平は平氏の平って教えたでしょう」

「はいはい、それは分ったけど、じゃどうして苗字が敵方の源なんだ?」

「それは仕方ないでしょ、結婚したお父さんが偶々源だから」


「それで父さんは絶対に母さんの実家には行きたがらないんだな」

「当たり前でしょう、それに母さんも父さんと結婚して源の姓に変わったので行き辛いよよ」

「それで俺かよ」

「親戚一同、母さんを裏切り者扱いするのよ、もうあれから835年も経っているって言うのに」

「母さんがそれを言うか・・でも凄いよな、平氏から一族を滅ぼした源氏に嫁に行くとは・・それに親戚もそれをまだ根に持っているとは・・」

「安心して今は時代も変わり源氏も平氏も無いから、だから貴方がお寺に行っても安心よ」


「嘘つけ! でも、どうせ親戚の中には誰もお寺を継ぐ者はいないのだろう。このままお寺が無くなっても誰も困らないじゃないか、後々面倒なので今の打ちに総本山が言うように潰してしまおうよ」

「確かにあんな田舎でお寺を継ぐ者なんて誰もいないと思うけど、ご先祖様に申し訳が立たないし、それに親戚一同からどうして潰したんだとガミガミ言われるだろうし」

「ガミガミ言われるぐらいなら我慢しろ、どうせ俺は蚊帳の外だ」


「バカね、言われるのは私じゃなくて貴方よ」

「えっ、どうして俺なの?」

「他に誰が居るの? 我家の長男は貴方よ、それに貴方の苗字は敵方の源だし、今ここぞとばかりに親戚一同から総攻撃を受けるわよ」

「おいおい、さっきと話が違うぞ。今は時代も変わり源氏も平氏も無い筈だろう」

「そうは言っても恨み辛みは一生消えないのよ」

「もう八百年前の事だぞ、俺にとっては跳んだとばっちりだ。そりゃ困ったな・・でもそんな親戚とは付き合いをしなければ良いんだ。そうだ、九州の山奥なら付き合わなくても済みそうだ」


「そうは上手くは行かないのよ、お寺が無くなると皆が困るけど、もしかすると貴方が一番困るかもしれないのよ?」

「どうして俺が一番困るのさ、ガミガミの小言は我慢するし、それに誰も継がないならお寺が無くなっても誰も困らないだろう?」

「それがね、あのお寺や敷地は総本山の所有じゃなくてお祖父さん個人の名義なのよ、だからお寺が廃止にでもなって、もしも宗教法人の税の優遇措置が受けられなくとね、建物や敷地を相続する私達一族には莫大な税金がかかるのよ」

「相続税の問題か、それならケチな親戚から一生鬼の様にガミガミ言われそうだな」

「そうでしょ、貴方は一生我慢できるの、ましてや貴方の奥さんや子供は?」

「将来の嫁や子供にもガミガミ言いそうだな」

「それにあのお寺には高価な祭祀の装飾品や価値のある書物もあるし、それが全部、税金で持って行かれてしまうの、そうなると貴方の大学の入学金や授業料だって、もう我家から出せなくなるのよ」


「えっ、そんな話は初めて聞いたぞ。それに今更入学金や授業料が出せないと急に言われても・・」と困惑している俺に母は更に惨い事を言い放った。

「入学金や授業料だけじゃないわ、税務署に相続税を沢山持っていかれると、当然、貴方の生活費やお部屋代も出せなくなるわね。もし大学に行きたいなら4年間みっちりバイトするか、今よりもっと勉強して地元の国立大学に必ず合格する事ね、言っておきますが浪人は絶対させないわよ」と、きつい一言を浴びせられた。

「母さん、俺の成績は分っているだろう、現役で地元の国立大学なんて絶対無理だよ。それに今更センター試験の勉強なんて、三教科でも死にそうなのにできっこないよ」


「それが無理なら、嫌でもお寺に行って来る事ね、そして少しはお寺を修繕してきなさい。頑張ってお寺が存続できるようにどうにかして総本山を納得させる事ね」

勿論楽しい夏休みに俺はそんな田舎の山奥にあるお寺になんか行きたくはなかったが、母からこのままでは大学の学費や部屋代は出せないと脅かされると嫌でも行くしかなかったので、取りあえずは明日にでも早めにお寺の現状を見て来るかとその日の夜は一週間滞在する予定で準備をして早めに就寝した。



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