表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/427

起:起 ≪手記≫

 手記No.18:『塩の城』オーゼンフォリオ


――筆の月/上目(じょうもく)の曜――


 レドラムダ大陸南部には、巨大な湖がある。

 どれくらい大きいかというと、イグナの測量では約612キロ平方メートル。琵琶湖(びわこ)が669.26キロ平方メートルらしいので、匹敵するサイズだ。

 が、実はこれ、厳密には湖でない。

 地下で海と(つな)がっており、溜まっている水も海水だ。

 なので生活用水にするにはひと手間が必要。

 だがこの湖から得られる(かて)は、そんなことは帳消(ちょうけ)しになるほど莫大(ばくだい)だとのこと。


 オーゼンフォリオは湖の(ほとり)に位置する街だ。

 扉の樹の樹齢は700年越え。

 その歴史はレドラムダ大陸帝国創成期にまで(さかのぼ)る。

 というか、初代女帝ヨハンネ・レドラムダはこの街を作り、湖を要地として押さえたために、大陸統一を()()げたとも言えるそうだ。


 主産物は塩。

 海水をくみ上げ、この街特有の豊かな天日(てんぴ)()すことで大変良質な塩が出来るのだとか。

 戦においては、とかく塩は重要な物資である。そのことを心得ていた女帝ヨハンネは結構な無茶をしてオーゼンフォリオを建て、その際の武勇伝や苦労話はレドラムダではメジャーな御伽噺(おとぎばなし)になっている。

 海魔討伐だとか。湖の強すぎる塩分の無毒化だとか。

 太陽が雲に100日隠れた際には、女帝レドラムダは自らの裸を(さら)すことで、太陽神に顔を出させたとか。……ちょっと教育向きのエピソードじゃなさそうだけど。


 街並みは、まず最初の感想として、白い。

 建物がみんな白い。道も。住民の衣装も白が多め。

 これはこの街が、一年を通して大変よく日光に照らされるために、()()された生活の知恵だ。

 照り返しがきついため、帽子やサングラスも重要なアイテム。

 傘、または(かさ)もオーゼンフォリオでは、なくてはならない。実用面は言うに及ばず、ファッションの一部としても。

 せっかくなのでオレたちも。

 イグナとキアシア、女性陣はサングラスに傘を。

 オレとユノハの男連中はゴーグルを。

 女性が持つ傘を、男が受け取り、差してあげるのがこの街における「モテる男」のイメージなのだとか。

 オレはユノハを蹴った。理由は、わかるよな。


 オーゼンフォリオにも「傷口に塩」という表現はあって、しかしその意味はオレの知るところとちょっと違う。

 ここでは「口以外からも塩を摂取(せっしゅ)するほど慌てている、時間が無い」を言うのだそうで。

 女帝様からの依頼を預かっている身としては、オレたちも時間はないが。この街の塩は、ちゃんと口で味わってみた。

 さすが、歴史あるだけあって、素人のオレの舌でも違いが分かる。

 ただしょっぱい・辛いだけじゃなくて、ちゃんと濃厚な旨味があるんだ。

 口内に(ふく)んだだけでも、ざらつくことなく、(ほど)けるように()けていく。

 店には花や果肉の香りを混ぜ込んだ塩もバリエーション豊かに並んでいた。


 キアシアは、甘味(かんみ)に塩を入れて甘さを引き立てる調理法に興味深々。

 イグナはソルティードッグに興味津々。

 ユノハは塩石鹸(しおせっけん)によって肌艶(はだつや)見事な街の女性に興味津々。

 オレ自身は塩漬けの梅に感涙。要するに梅干し。梅干し……(なつ)かし美味(うま)し。


 そんなオーゼンフォリオだが、実は現在空前の好景気。

 他大陸からも来訪者が押し寄せている。

 理由は街の(そば)に出現してしまった、ダンジョン。

 これを目当てに冒険者たちが大挙(たいきょ)して押し寄せているんだ。

 他にも多数のダンジョンがある状況で、なぜこの街に……といえば、どうも金が産出されるらしい、とのことで。

 ()()してきた巨大なトカゲがオーゼンフォリオの防人(さきもり)討伐(とうばつ)された折、その腹の中から金塊(きんかい)が山のように出てきたのだそうだ。


 女帝様はこれら冒険者を、さして()()まってはいない。

 ダンジョンに潜りたいなら潜れ、というスタンスでいる。

 万一、誰かが最深部に到達して秘宝を手にし、叛逆(はんぎゃく)仕出(しで)かしたらどうするのかと()いたら、「(ちゅう)するのみ」とのご回答。

 恐れているのはあくまで臣下が狂うことであって、反乱なぞは叩いて潰せばよいのだということらしい。

 むしろダンジョン攻略の手間が省ける分助かる、とまで。


 オレたちがわざわざ挑まなくても、ここのダンジョンはいずれ攻略されるのではないか、と思わないでもないが。

 ユノハによればここから始めるのが『正しい』のだと。

 真意はよくわからない。それは神意でもあって、ユノハ自身にもよく分かっていないのだ。

 まぁ、どうせいずれ全部(めぐ)らなきゃいけないんなら。どっからでもいいか。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ