神器について
神託者が稀な存在であることからも分かる通り、神が人に対して奇跡を直接施してくれることは滅多にない。
なので人が神の力を目の当たりにする機会は、神器を通じて、という形が最も多い。
神々が権能の一部を用いて生みだす聖遺物。
その力は海を割り、幻獣を手懐け、砂漠を森に変える。
奇跡を起こすアイテムという意味では魔具に近いが、出力が段違いだ。
形状は様々。
あるものは武具であったり。
あるものは文具であったり。
神が込めた『機能』を発揮するのに、一番無理のない形状をしているそうだ。
中には液体のものもあるとか。
有名どころでは、オレとイグナも見た共鳴神の『百腕天秤』と『百腕巨人』。
偽りを焼き尽くして真実を浮かび上がらせる、解放神の『合わせ鏡』。
損壊した部位を無かったかのように取り除く、医療神の『三つ首鋏』。
雷雲を飼い慣らす、雷鳴神の『宝剣』。などなど。
大抵の神器は、神自身が使うことを想定されたものである。
そのため人が扱うには少々余り、使用はされずに神殿等に安置され祀られるのが普通だ。
置いておくだけでも、時たま神器は力を発揮する。発散される神威は人に影響を与え、俗っぽく言ってしまえばパワースポットとなる。
ごくごく稀有な、それこそ神託者の存在より数少ない事例としてだが、神器に適合し自在に使用できる者が現れることもあるというが。
基本的に、神器に宿る力は無尽蔵である。神は完全で無限だからだ。
それを創り出した神が、信仰を保ってさえいればまず不滅。
また祈り信じる力が強まれば、神器も力を増すのだそうだ。
この辺はオレたち神託者と同様か。
神器が人の手に渡る経緯も様々。
千年前、まだ神が地上にいた頃に、落としていったものが発見されるパターン。
敬虔な信者へ、神が酬いとして贈るパターン。
生物以外が神に取り立てられ、神格を得たパターン。
神器発見は、『扉の樹』と並ぶ冒険者憧れの成果だ。
そのため彼らは熱心に神話の知識を蓄え、神の足跡が残る場所へ赴く。
眠る神器を最初に起こした者には、しかるべき力が与えられるとの噂も。……これはどうも、「扉の樹から最初の鍵をもいだ者は~」と引っ掛けた眉唾らしいが。
レドラムダ女帝が先祖より受け継ぎ、保有するという平定神の神器。
それは一体どんな形状か。
それは一体どんな機能を持つのか。
身体を創り出す力がある、とはいうが、それは『平定神』から連想される能力じゃあない。となると真の機能は別にあって、それを上手いこと転用していると見るべきだろう。
詳細が是非とも知りたいが、今のままでは難しい。
とりあえず最初のダンジョンを制覇し、その報酬として話してもらうのがベストか。




