後:急 ≪貸与≫
手続き、というものが七面倒くさいのは、どこの世界でも同じのようだ。
ダンジョン攻略を引き受けた陸歩に対し、レドラムダ大陸にある全街の鍵が貸与されるのは当然の配慮である。
のだが、受け渡しにはわざわざ式典を催す必要がある、というのが宮廷の事情だった。
女帝の財産であるところの鍵を、旅人の身分である陸歩にポンと投げて渡すような真似は、慣例や外聞にかけて出来ないのだそうだ。
そもそも、依頼を持ち掛けたのがレドラムダ側であるとはいえ、何の氏も持たない青年に国務の代行をさせるのも許されないことらしい。
なので陸歩たちは取り急ぎ、特務騎士としての称号を与えられた。
イグナ、キアシア、ユノハと共に正装し、女帝の前に膝をつき、肩を剣の腹で二度ずつ叩かれる。
そうしてからようやく、鍵の詰まった箱を下賜される。
「……だぁー……疲れた……」
屋敷に帰っていつもの服装に戻った陸歩は、ソファーにごろりと寝転がった。
厳粛なセレモニーなんて人生で初めてで、どんな荷物を背負うよりも肩がこった。
ドレスだった女性陣はまだ着替えと化粧落としに手間取っているようで、居合わせるのはユノハのみである。
そしてそのユノハは、何やら膝を抱えて、唇を尖らせていた。
「あーぁ。これで僕にも騎士なんて肩書きが付いちゃったぁ。落ちるとこまで落ちた気分」
「なんだよ、別に何にも変わらないだろう?」
「変わんないけどさぁ。……僕ってこう見えて潔癖だからさぁ。回路神神託者以外の称号って、不埒じゃない?」
「そんなに不満なら、返上して行方くらませば」
「なんだいその言い草。ついてくって何遍も言ってるでしょうが」
「あ、そ」
起き上った陸歩は、テーブルに置いてある箱を開けた。
底の深い箱で、内壁には等間隔で釘が打ってあり、その一つ一つに鍵が吊り下げられている。
「……なぁユノハ。提案なんだけど」
「なんだい」
「ダンジョン攻略さ、二手に分かれないか」
現状聞いているだけでもその数は十九。一つ当たりにどれだけの時間が要されるのかは分からないが、簡単な数でないことは分かる。
女帝の理屈なら、攻略は神託者であればいいはずだ。ならばせっかく陸歩とユノハ、二人の神託者がいるのだから、手分けをしたほうが合理的に違いない。
だがユノハの鼻を鳴らす。
「止めといた方がいいね。
僕は一人でも平気だよ? でもリクホくんには、僕がいた方が絶対にいい。でないと君は、ダンジョンのどこかで、絶対に困ったことになる」
「……それは、お得意の『正しい手順』か?」
「そういうこと。それに、キアシアちゃんも連れていくんでしょ?」
「そりゃあな」
「じゃあ尚更、僕を混ぜておけ。守れる者が多い方が、彼女の生存確率も上がる」
「…………」
それを言われると返す言葉もない。
あるいはキアシアは説き伏せて、置いていくべきだろうか。
……でも多分、言っても聞かないだろうな、という予感もあった。
ついでにキアシアはイグナのセカンドユーザーのままで、おかげで対応幅が広がるという期待もある。
「仕方ないな。『四人で』が正しいんだもんな」
「そうそう。リクホくんも分かってきたじゃない」
預けられた鍵を山分けする必要がなくなったため、陸歩は片端から自分の篭手に収納することにする。
が、その前に。
「ユノハ。『正しい手順』だとさ、この鍵の中の、どれから始めるのが正解だ?」
問うと、ユノハは真剣なまなざしで箱の中を覗いた。
眉根に皺を寄せ、小さな何かを見逃さないよう努める目つきで、しばらく。
「――これ」
鍵の一本を摘まみ上げる。




