序:破 ≪手記≫
手記No.15:『魔女の庭園』シュニツェラ
―― 弓の月 / 中手の曜 ――
カシュカ大陸南部、針葉樹林のただ中。
この街について現状、シュニツェラという名前と『魔女の庭園』のあだ名の他、オレの得られた情報は限られている。
まず男嫌い。
とにかく男嫌い。
どういう理由なのかシュニツェラには女しかおらず、その全員が男を蛇蝎が如く嫌っている。それこそ出会いがしらに矢を射ってくるほど。
もしかしたら駆け込み寺的な街なのか?
例えば他で暮らしていたが、男からの何らかの迫害にあった女性たちが集まってくる街であるとか。
一応、筋は通りそうな推理に思えるが……。
広さはイグナがこっそりワスプを放って計測してくれたが、東京の主要な駅くらい、とのこと。
扉の樹がある様子だから定義的には間違いないが、オレの感覚的には街というより『施設』って感じ。
それから花に思い入れがある様子。
外壁を生花で覆っているのは何らか呪術的な意味があるのでは、とはキアシアの談。住民の女性たちが襟巻にしている花についても。
色とりどりの花々は、まぁ見目麗しくて結構だが、オレにはどうもキナ臭くもある。心象的な問題かもしれないけどね。
花があるなら野菜や果実もあるだろう、とイグナは予想した。
物資の補給は十分以上に可能と。
ただし街に入れるのは女のみで、つまりオレは外で待ってる他なくて、その分断をイグナは推奨度『低』で示した。
悩みどころ。
キアシアも「やめとこっか」という雰囲気を出している。
が、オレには一つ気になることもあって。
ここの女性は全員が全員、イグナやキアシアとタメを張れるほどの美人ぞろいだ。
つまりは魔力の豊富な人種ということになる。
おまけに『魔女の庭園』というあだ名。
もしかしてこのシュニツェラは、魔術の盛んな街なんじゃないか?
現に、射ってきた火矢。
あれはなんと、魔具であったようだ。先端の炎は魔術で着火された。
矢なんて消耗品を魔具化させるなんて、どれだけ魔力の潤沢な街なんだろう。
門外不出の魔術理論があったりするんだろうか。
そいつをスルーするってのは、今のオレにはちょっとキツイ。仮に男のオレに術を教えてくれるような人が、絶無だとしても。
様子だけは知りたい。
知りたいとも。
虎穴の可能性は否めない。誰から誹られても仕方ない。
それでもオレはイグナとキアシアに、街に入るよう頼んだ。
シュニツェラは不倶戴天とばかりに男嫌いだが、とはいえ坊さん憎けりゃ袈裟まで、というわけでもないらしい。
オレの仲間であっても女であるイグナ、キアシア両人に敵意はないようで、門を開いたままだ。
もっともそれも何らか罠とも勘ぐれる。
なので暫定的に、キアシアをイグナのセカンドユーザーに設定した。これでキアシアの意思で、イグナを戦闘形態に移行できる。
さらにイグナからテントウムシのワスプを一機、オレの手元に預かっている。
何かあればこの子を介して知らせる手はずだ。
そうなればオレは、あの花壁をブチ破るも辞さないつもり。
イグナとキアシアが入るなり、門は固く閉ざされた。
で、締め出されたオレは、見張る目を二人分しっかり感じている。監視役が付けられたわけね。
外壁の傍にいると、またぞろ矢を射かけられそうなので少し離れた。
ただしいつでも駆けつけられる距離からは外れない。
そうするとお目付け役の気配も付いてくる。
今後の状況、どうなるか。
頼りはイグナ。そしてキアシアだ。




