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街について

 街。

 ふと気になってイグナに辞書検索してもらった。


【町/街】

① 住宅や商店が多く、人口が密集している所。都会。

② 商店の並ぶにぎやかな場所。市街。


 以上はオレたちの世界における街の定義で、この世界のそれはまた若干(おもむき)が異なる。


 こっちの世界で言う『街』は、扉の樹を中心とした周辺の土地一帯のことだ。

 だから仮に誰一人住む者のいない場所に、ぽつねんと扉の樹だけがあったとしても、そこも『街』と呼ばれる。

 対してどんなに人がたくさん集まろうと、どんなに人が長く暮らそうと、扉の樹がなければ街ではない。それは『村』と呼ばれる。


 だがまぁ、遠方と一瞬で繋がる扉の樹の利便性は今さら言うに(およ)ばず、今日(こんにち)でも新たな一柱(いっちゅう)が世界中で求められているのだから、『街』に人が寄り付かないってことはまずない。

 そして『村』が広大になることなんて、経済や物流の観点からよっぽど難しいのだから、結局のところ『街』という語の持つニュアンスはあっちの世界とこっちの世界で大差はないように思う。

 街は人口の密集している所。

 商店の並ぶにぎやかな場所。


 ただ極稀(ごくまれ)に、何らかの理由で定住者、土地の所有者、民のいなくなった街というものがある。

 こういう場所は『駅』と呼ばれ、住むためでなく移動のためだけに用いられる。ご利用無料のワープポイントって感じ。

 ……が、これも時間の問題というか。

 そういう場所では旅人同士の取引(とりひき)が起こったり、旅人相手の商売が(さか)んに行われたり、扉の鍵を収穫・売買する業者が介入したり、宿場が建ったり、実に活発な流通が発生するからだ。

 やがては定住する者が増え、生活のルールを厳密化し、歴史を経ると……もう街として十分に再生しているだろう?

 現在オレも数本、駅の鍵を所持してはいるが、これらもそう遠くなく街の鍵になるはずだ。


 また世の中には未開の地へ分け入り、新たな扉の樹を探す者たちがいる。

 彼らは冒険者と呼ばれ、一攫千金、あるいは無頼(ぶらい)の代名詞だ。

 それだけの価値が扉の樹にはあって、一番最初に枝から鍵をもいだ者は、街を創る権利とそれを治める力を手に入れるのだと。

 一国一城の主になれるとあっては、どんなに危険な大陸へでも、冒険者は引きも切らない。

 無謀だが、ロマンってのはそういうものだ。


 オレたちはこの先、どんな街と出会うのだろう。

 亀の背の上にある街、小人の街、猫による猫のための猫の街。この前それらの記載を図書館で見つけた。

 オレはその本を御伽噺(おとぎばなし)だと思って呼んでいたが、正体はガイドブックだった。


 興味が尽きることはないよ、この世界は。本当に。

 巡る街々は全て、煌めきの異なる宝石箱だ。


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