序:結 ≪晩餐≫
いよいよキナ臭くなって参りました。
お風呂を出たワタシたちを待ち構えていたのは、倍の人数の女官で、頼みもしないうちに着替えを世話してきます。
それも煌びやかな、夜会用のドレス。
加えてアイシャドウやらファンデーションやらルージュやら。
髪に櫛を通され、マニキュアを塗られ。
女官はまるで、ワタシたちを淑女に仕立て上げようと躍起なよう。
それらが済んで通された食堂。
これがまた。
壁やテーブル、椅子に用いられている光沢のある木材は、上質なマホガニーでしょう。
床のタイルは一枚一枚が複雑な幾何学模様。職人技と見受けられます。
卓上の食器、燭台は残らず銀製。
そこへ盛られた料理は宮廷もかくや、というもの。
「この晩餐が刑務?」
すっかりご令嬢に変身してしまったキリさんが皮肉げに言いますが、口元は引きつっています。
他の人たちも同じような様子。
それも仕方のないことで、だってどう考えたって不自然でしょう。
ただ、ワタシたちが囚人であることは未だに違いなくて、現に看守が四人がかりで見張っています。
中でも一際ガチャガチャと装飾の付いた看守が、低い声で言いました。
「座れ」
命ぜられるまま、各々がおずおずと椅子へ。
ワタシの隣へ座ったキリさんが、こっそりと囁いてきます。
「ねぇ。これ、どういうことだと思う?」
「判りません」
四方の壁にはそれぞれ巨大な鏡が掛けられていました。
解析の結果、マジックミラーではありませんが……これまでの道中で『遠見の鏡』なんて代物にも出会っているため、今度は覗かれていないと断言することが出来ません。
「各自、十分に飲み食いするよう」
言って、看守たちは外へ。
鍵のかかる音。
全員の長い息継ぎが重なります。
「で。食べろってさ」
「えぇ……。何が入ってんのよ」
誰もが尻込みし、匂いを嗅いでみるのがせいぜい。
躊躇なく手を付けられるだけ豪胆、あるいは悪食な方はさすがにいません。
なのでワタシが先陣を。
「あっ、イグナ、あんたっ」
とりあえず手近なスープを一口、含んでみました。
魚介ベースのあっさりとした風味。
各種野菜の旨味成分を感知。
アルコールも検出されますが、香りづけ程度の量で、酩酊するどころか常人には気づくこともないでしょう。
ワタシの味覚センサーは、オールクリアと判定。
「問題ありません、薬の類は盛られていない」
「……分かるの?」
「心得が、あるのです」
なら、ということで皆さん食べ始めました。
正直になれば全員、空腹が限界に近かったのでしょう。
どれもこれも味は絶品。
蕩けるようなステーキに、ふかふかのバゲット。
野菜はほんの数十分前に収穫されたものか、鮮度に由来する甘さが立っています。
揚げ物はこの街の名物であるポテトからオニオン、にんにく、ゴボウに似た食物と、種類が豊富です。
……ですが美味しければ美味しいほど、現状の不可解さが増します。
「もう訳わかんない」
「実は食材全部、廃棄品とか?」
「こんなに美味しいのに」
「この街じゃネズミまでごちそうを食べてそうだわ」
お風呂での議論の再開ですが、いきつく先はやはり同じ。
答えなんて出ません。
とりあえずはワタシも、流れに身を任せておくしかないでしょう。
何らかのアクションを起こすのは、リクホ様のご意向があってからでなくては。




