結:序 ≪手記≫
手記No.11:『夢見る白煙』モンプ
―― 鐘の月/中手の曜 ――
カシュカ大陸もだいぶ北部まで来ると、風に微かに硫黄の匂いが混じることがある。
これを敏感に辿っていくと、モンプに行き着く。
放浪の街、なんてあだ名もあるモンプだが、別に街自体が動き回ってるわけではない。
単に近隣一帯が一年中濃い蒸気に包まれていて、余所者では見つけるのが難しいというだけ。
とはいえイグナの目とオレの鼻があれば、ざっと一日で見つけられた。
名物はなんといっても温泉。
火山が近いのもあるが、それにしてもたくさんの温泉がモンプの周りには湧いている。
観光客は引きも切らない。だが前述の通り、訪れることの出来る者は稀。そこにまた秘湯感が出て、売りになってるのだとか。
強行軍でクレイルモリーを目指していたオレたちだが、そろそろキアシアの体力が限界のため、この街で休息を取ることにした。
肝心のキアは音を上げるどころか、意地を張るばかりだったから、半ば無理やりにね。
モンプの住民はだいぶ人懐っこい。これは大人も子供も男も女も関係なくだ。
またここの文化では湯気と煙を貴ぶらしく、あちこちで線香が焚かれている。
息をするだけでもこの香りに喉や鼻を洗われるようで、心はたちまち穏やかだ。
食も特筆したもの。燻製。
燻した肉、卵、野菜、魚。最高。
それから、この街を染め上げる湯気は特別で、なんでも時々人の過去を映し出すらしい。
モンプに悪人なしというそうだが、もしかしてこれが関係しているのか。
まだ宿に荷物を置いただけだが、遣いの人が訪ねてきた。
なんと街主様が、オレに会いたいのだとか。
聞けばここの街主様は、初代がそのままご存命なのだという。
本当ならすごい話だ。
モンプの扉の樹が何年ものかは知らないが、その最初の鍵をもいで街を創ったとなれば、百歳以上は確実。
さすがに緊張する。
しかもイグナもキアシアも置いて、オレとだけの面会をご所望ときた。
ピンチ。
オレ一人で社の交渉、上手くできるかね?




