魔女高弟十六人衆について(前)
あの魔女はおそらく、この世のあらゆる場所で悪事を働いている。
どこかの大陸どこかの街で、禁忌にまつわる事件があれば、それはきっと奴の仕業。
僧侶たちの遺体を簒奪……。
神獣の密猟……。
汚された聖女の純潔……。
余計に悪いのは、魔女は奪うばかりではない。
ときには与えもする。平凡な誰かに、力を。
そうして残虐の味を覚え込ませ、悪逆に手を染めさせるんだ。
たとえ元は善良な一般人でも、魔女に魅入られればひとたまりもなく誘われ、それも自分から進んで魔道に入り、喜んで神に唾するとか。
いつぞやの、億法都市の法務官がそうだったように。
だから、魔女には弟子や信奉者が存外多い。
別に組織だっているわけでもなく、横のつながりがほぼないらしいから、そいつらを探し出すのはちょっと無理だろうけど。
魔女を師と仰ぐ連中が、実は何人も隠れてるってのは、だいぶ気持ち悪いな。
そんな中で、『高弟』の位にある十六人がいる。
いや、今や数人の欠けが出ているから、いた、というのが正しいか。
この世界の十六月になぞらえたあいつらは、魔の薫陶を受けた中でも並外れた才と能力を持つ者どもだ。
魔女が『上』の世界へ上がるため、部下として選んだ化け物たち。
オレたちの対抗勢力。
高弟たちとはこれまで、幾度となく矛を交えた。
ここらで一度、まとめておこうと思う。
○剣の月
『塔剣』のアインヴァッフェ・イリュー。
ご存知の通り、高弟から離脱済み。
巨人の剣士で達人。戦狂い。
恩や好意で魔女に付いている他のメンバーたちと違い、魔女のほうがその実力を見込んで口説き、仲間に加えたらしい。弟子というより用心棒か。
直接的な戦闘においては十六人の中でも頭一つ抜けた男で、こいつをオレの側に引っ張り込めたのは今にして思えばラッキーだった。
たまに暴走しやがるが。
○旗の月
『励旗』のフェズフェルライト・カンブラル。
羊角、鋼の四肢を持つ少女。
出身は世界樹。かの街の巫女を母に持ち、その愛が未だにフェズと共にある。
とんでもないパワーの持ち主で、さらには炎や雷を纏う。
若さ、というか幼さゆえか、絶賛成長中の様子。あの調子なら遠からず、相当強くなるだろう。
魔女は育ての親。魔女のほうもこの少女を可愛がっているようで、ひどい扱いはどうやらしていない。なら、まぁ、よし。
オレはフェズの仇。またじきに挑戦しにくるだろう。楽しみではある。
○楯の月
『俊循』のトエンティーユ・ボナービア。
兎耳の獣人。
呪いの茸を使う。
また一流の結界術師で、魔女の守りの要……と、アインから聞いた。
会話に特徴があって、一つ訊くと必ず一つ訊き返してくる。この独特なコミュニケーション方法から調べれば、彼女の故郷は突き止められそうな気がする。
○印の月
『妖印』のユーリー・ゲイトゲイザ。
印章術の天才。様々な事象を引き起こす魔法のスタンプを使いこなす。
相棒のクランシュはイグナの姉、すなわち先行機。
クランシュの機能とユーリーの印が連携し、くり出される多彩さは脅威。
ただ両人とも精神的に繊細な感があって……うまくやれば寝返らせることって出来ないかな?
○槍の月
『荊槍』のリャルカ・エナムガ。
蛇頭の獣人軍師。
常に三本足の鴉を連れている。
魔女一派の参謀役。
義理や道理を重んじる武人の気質が垣間見えるが、魔女のためならそれをあえて侵すこともいとわないようだ。
無数に枝分かれする槍を用いる巧者。それと鴉を使い魔にするが、他の能力は現状不明。アインも知らないあたり、リャルカ自身が注意深く伏せていたんだろう。
○鐘の月
『刻鐘』のカナイズミ・アオ。
時間を操作する能力を持つ青年。しかしどこまで時を操れるのか、未だに底が知れない。
リャルカと並んで頭脳担当で、未来視か予知のようなこともしているのだろうか。月の襲撃を事前に察知されていた。
やはり優先的に倒しておくべきだったか……。
過去にカナの地元で襲撃したが、手痛い反撃にあってしまった。
高弟の中では一番厄介な相手かもしれない。
○弓の月
『想弓』のミリアルド・フォスカー。
梟の獣人女性。
元は猟師らしく、狙撃手。
アインが言うには、感情を矢にして射ってくるとか。
オレも一度、胸に食らったことがあるが……どう考えても尋常な威力ではなかった。呪術と考えたほうがいいかも。
正直、この身体になってから、あのときほど死を覚悟したことはない……。
要警戒。
○筆の月
『征筆』のドゥジェンス・バーンハイ・ビヒテンシュタイム。
目下、一番問題の人物。
アインは彼のことを、つい最近やっと思い出したと言う。なんでも仲間内でも制御の効かない男で――お前が言うかね――とにかく、魔女が致し方なく封印していて、そのため忘却してたらしい。
っていうか、バーンハイ? ビヒテンシュタイム? ……めちゃくちゃ聞き覚えのある名前じゃないか。とりあえずテオに手紙は出した。
しかも、ドゥ。ドゥジェンス。これはキアシアが見つけた名である。彼女がオルトの影に囚われていたときに出会い、夢の中でたびたび再会したという少年の名。彼を助け出すために、手を尽くして名前を探したのだ。
ドゥジェンス・バーンハイ・ビヒテンシュタイム。そこらの人に訊ねてもみんな知っている。めちゃくちゃ有名な作家だ。
なぜかここ数年はめっきり話題にならなかったというが、文神とも称されるほどの書き手で、読者ってか信者がいくらでもいるそうな。
……つまり、どういうこと?
超一流の小説家が、魔女の仲間で、でも閉じ込められていた?
それをキアが救った?
おまけに、多分テオの身内……。
ドゥジェンス・バーンハイ・ビヒテンシュタイム。
彼はやはり敵だろうか。それとも、オレの味方になってくれるか。
ひとまずこの八人で、一旦区切るとする。
残りは次回。




